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視覚情報を協働の切り札に。世界が注目するオンラインホワイトボードの真価

【連載】体験と礎 #5 Miro

コロナ禍における環境変化は企業活動の仕組みに様々な変化を与えた。特にリモートワークの普及やITツールの活用促進は働き方を多様化させるきっかけにつながった。一方、部員や同僚の姿が見えない環境におけるコミュニケーション手段が課題となる場面も見られた。
 こうした状況下、米Miroのアプリケーション「Miro(ミロ)」が複数人で集まる場の対話を充実させるツールとして注目を集めている。同製品は会議の資料やワークショップの教材など幅広い用途で活用でき、世界で約4000万人(※1)に親しまれている。様々な立場の参加者が意見し合う体験の追求は日本企業にどのような価値を提供するのか。また、製品が便利であるだけでなく、楽しく使われるためにはどのような工夫がなされているのか。

多様な情報をひとつの場で共有

ミロは2011年にアメリカで誕生したSaaSプロダクトだ。ホワイトボードをモチーフにした世界観の下、オンライン空間上にメモやスケッチを自由な形態で描ける。付箋やスタンプ、手書きの書き込みができるペンツールなど直感的に扱えるUI(ユーザー・インターフェース)と、カラフルで親しみやすいデザインが特徴。1つのボードに複数のユーザーが参加し、同時に編集を行うことも可能だ。

Miroボードのイメージ

同製品の強みは視覚情報を主体とする設計だ。メモアプリやチャットスペースのような情報を構造化して整理するツールに比べ、様々な性質の情報を一覧できる。これにより、書類やスライドなどの静的な要素と、個人のアイデアやコメントといった動的な要素を一体化する体験を実現している。
 そしてミロを用いた場では様々な情報が1つのボードに集まることで視線が画面に集中する。自分も他者も画面上の一要素となる体験は、参加者同士が周囲の表情などに影響されず意見し合える環境に貢献する。発言が1人ずつに限定されるビデオ会議などの環境で感想や質問を円滑に共有する手段として併用する事例も多いという。リモートワークの人と会議室に集まっている人を繋いで議論をするような場面においては、オンラインとオフラインの情報の差分を減らす手段としても有効だ。

企業活動では部署や企画ごとにボードを作成し、日々の仕事の記録や意見を共有し合う「場」として活用が広がる。日本の導入企業は4,000社を超え、スタートアップや情報通信業、製造業、コンサルティング業など利用者の企業規模や業界・業種は様々だ。

日本企業が協働を必要とする背景

日本におけるミロの利用者数は現在約70万人。21年の日本法人の設立から半年で20万人程増加した。ミロの日本拠点であるミロ・ジャパン(東京都千代田区)の五十嵐光喜社長は「以前から他国に比べて利用者が多く、市場への期待値は高い。コロナ禍以降では働き方が多様化したり、オンラインコミュニケーションが拡大したりして、経営層の『従業員エンゲージメント(※2)』に対する意識が変わったことも追い風となった」と強調する。

ミロ・ジャパン 五十嵐社長

従来、日本企業の労働改革は年休取得や残業時間削減といった稼動状況を軸に進められる傾向にあった。他方、コロナ禍で物理的な制約に直面する中では、企業がチームの結束やモチベーションの強化に積極的に投資する動きが見られる。特に職種や年齢を問わず利用機会が広がったITツールは、価格や機能に加え、製品の活用から生まれる付加価値が導入の判断材料として重視されている。
 こうした動きの中でミロのアドバンテージが発揮されているのが立場や職種、さらに時間や場所を超えて人々が協働できる体験設計だ。日々の仕事の中で個人が意見し合える仕組みが身近にあることは、多様な価値観を共有する土壌になる。そして「楽しい」「使いやすい」といったポジティブな体験が、ITツールに馴染みのない利用者でも親しみを持って製品を使うきっかけにつながっている。

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また日本人の多くは会議などに参加すると周りの様子を非常に気にする傾向がある。実際に近くの参加者の表情が気になったり、緊張して意見するのをためらったりした経験を持つ人も少なくないだろう。ホワイトボードや模造紙などを使ったワークショップでは「何を描けばいいかわからない」と思考が止まってしまう人も多い。
 こうした課題に対し、同社ではテンプレートライブラリー「Miroverse(ミロバース)」の拡充に力を入れている。五十嵐社長は「テンプレートの存在は製品の利便性を向上させるだけでなく、利用者が会議における具体的なアウトプットを見出すためのガイド役としても機能する」と指摘する。現在公開されているデザインは100種類以上。事業開発やシステム設計で使用するフレームワーク、イラストを使ったミニゲームなど展開事例も豊富だ。

カジュアルなコミュニケーションを促すスタンプやリアクションボタンのデザイン
ミロバースの例

ミロ・ジャパンでは今後3年以内にTOPICS 100での導入を90%にすることを目標に掲げている。国内においては拠点設立から3年で500万ユーザーの獲得を目指す。
 「もともと日本には多様な立場の人が集まって楽しくモノづくりをする姿勢があり、そこから先進的な製品やイノベーションが生まれてきた歴史がある。ミロが提供する体験を通じ、活発なコミュニケーションが生まれる環境に貢献していきたい」(五十嵐社長)。
 22年6月には製品初のローカリゼーション事例となる日本語対応版が公開された。テンプレートやヘルプセンターなど、対応範囲も順次拡大していく見込みだ。

楽しさを支える「使いやすさ」の追求

ミロでは楽しい世界観に通じる視覚表現の追求と共に、製品の使いやすさにも磨きをかける。その背景にあるのが「より多くの人が困っていることを優先して解決する」という改善指針だ。
 「一見バラバラな要望に思える事象も、顧客との対話を通じて理由や背景を深掘りしていくと根幹にある共通課題が見えてくる。価格や機能に加えて『使いやすさ』がITツールの評価軸となる中、利用者の声をもとに地道な改善を重ねる意義は大きい」(五十嵐社長)。

公式ブログで紹介されているアップデート事例

どんなに魅力的な世界観を持つ製品であっても、扱える人が限定されたり、使い勝手が悪かったりすれば多くの人の間で活用するのは難しい。ITツールに限らず、製品の個性と機能のバランスを両立するには使い手の生活や社会の変化を捉える姿勢が重要だ。

※1……2022年8月時点
※2……従業員が企業や職場に対して示す貢献意欲や業務へ主体的に取り組む姿勢

写真・画像提供:ミロ・ジャパン
 インタビュー写真撮影時以外はマスクを着用して取材実施

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濱中望実
濱中望実 Hamanaka Nozomi デジタルメディア局コンテンツサービス部
デジタル製品が浸透していくためには使ったことがない人へのフォローやリテラシーの壁を越えていく工夫も重要です。ミロでは「使い方の説明」ではなく「楽しく使える体験」から製品に触れるきっかけ作りとしてハンズオン形式のセミナーなども実施しているそう。最近ではビデオ会議システムや開発ツールの一部として実装される動きも見られるオンラインホワイトボード。近い機能を持つサービスが増えていく中で製品の個性や体験設計の追求がもたらす成長について今後も注目していきたいです。

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