「ギガキャスト」「自走組み立てライン」…トヨタが生産革新加速、次世代EVに新技術
トヨタ自動車が電気自動車(EV)事業の収益力向上に向け生産革新を加速する。2026年から投入予定の次世代EVでは、駆動系部品を車体と一体化する「ギガキャスト」や、車台が自ら工程間を移動する「自走組み立てライン」といった新技術が採用される見通し。部品点数の大幅削減や、投資の半減などを実現し、コスト競争力を強化する。これらの技術はEV以外の量産車にも展開する方針。モノづくりのあり方を根本から変える可能性もある。(編集委員・政年佐貴恵)
「時代ごとに空いてくる土地や遊休設備をしっかりと使うことで、これからのモノづくりが変わり、収益にも貢献する」。4日、説明会を実施したBEVファクトリーの加藤武郎プレジデントは、EV事業の生産面での考え方を、こう示す。その軸となるのが「BEVハーフ」と呼ぶ、生産準備期間や生産工程、工場投資などを半減することを目指す取り組みだ。
高い電池価格や開発投資負担が重しとなるEV事業では、コスト削減が大きなテーマ。原価そのものを下げる生産技術力が一層重要になる。部品統合による設備や工程の削減で余力を生み出し、効率化につなげる。
中でも自走ラインは、搬送用コンベヤーをなくすことで設計自由度を大幅に高められる。「従来は生産地を決めて計画を進めるのが通常だったが、自走ラインなら工場の空き状況などに応じてどこの拠点が最も適しているのか深く考えられる」(加藤プレジデント)。近藤禎人モノづくり開発センター長は「組み立てラインにおけるコンベヤー投資は3―4割を占め、かなりのインパクトがある」と、投資面での効果も見込む。
ただ、この革新ラインの思想は、EVにとどまるものではない。中嶋裕樹副社長は「ギガキャストも自走生産も、EVのためではなく生産のフレキシビリティー(柔軟性)を上げるのが一番の目的。EV以外の車でも適用可能だ」と明かす。自動車市場は30年ごろまでは成長が見込まれるが、以降は鈍化し横ばいで推移すると予測される。その中でもEVやハイブリッド車(HV)など多様な駆動源を、新興国も含めたグローバルに展開する「マルチパスウェイ」を掲げるトヨタにとって、需要動向に応じて柔軟に生産を変更できる技術は、今後欠かせない競争力になる。
一方、既存の車体部品メーカーや設備メーカーは影響が避けられない。「ギガキャストが実現したら、我々はどう仕事を進めればいいのか」。車体系の鍛造部品メーカー首脳は、EVが本格化するとみられる30年以降の戦略に頭を悩ます。加藤プレジデントは「影響は深く認識している」とし「サプライヤーの持つ別の技術と組み合わせてより良いことができるといったアイデア出しも進めている。チャンスと捉えて良い動きにしたい」と話す。生産革新は深刻化する人手不足への対応策としても重要になる。変化を競争力にできるか。サプライチェーン(供給網)全体での取り組みがカギとなる。
【関連記事】 トヨタグループも頼りにする異能の変革集団
【関連記事】 ホンダが新しいクルマ作りで必ず頼りにする機械メーカー