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産業革新投資機構傘下で非上場化、JSRが推進する構造改革の行方

JSRが産業革新投資機構(JIC)による株式公開買い付け(TOB)を受け入れ、非上場化することを決めた。資本政策を見直し短期的な業績影響にとらわれず、柔軟な経営判断を行えるようにする。同社は祖業のエラストマー事業の売却後、半導体材料やバイオ医薬品など成長領域に経営資源を注ぐが、足元でEPS(1株当たり利益)が伸び悩むなどの課題を抱えていた。単一株主の下で大胆な投資や構造改革を推進し、競争力の強化を目指す。

直近決算期における1株当たり純利益の比較

「JSRと半導体材料業界の両方に資する決断だ」。JSRのエリック・ジョンソン最高経営責任者(CEO)はこう強調した。

同社が得意とするフォトレジストは日本企業が世界シェアの約9割を占めており、このうちJSRは同約3割とトップシェアを握る。半導体市場の拡大と高性能化に対応し、開発競争を勝ち抜くためには、材料各社が研究開発や安定供給に向け継続的な投資を行うことが重要なテーマとなる。

実際にJSRは21年には極端紫外線(EUV)の露光効率を高める金属系レジストを製造する米インプリアを約450億円で買収。また、同社拠点や国内でレジスト製品の増産体制を整備するなど、先端分野の需要拡大を見据えたさまざまな手を打ってきた。

ジョンソンCEOは「(半導体材料は)プレーヤーの数が多く、重複する投資を行っている」と業界の課題を指摘する。フォトレジストに関しても3000億円規模の市場に多様な企業規模の国内化学メーカーがシェア争いを繰り広げている。JSRは国際競争力の強化に関し課題を認識しており、水面下で上場廃止の検討と交渉を進めてきた。

JSRの業績

今回の決断は資本政策を見直して経営の柔軟性や投資効率を高めたいJSRと、「産業や組織の枠を超えた事業再編の促進」を重点投資分野の一つに掲げるJICの利害が一致した形だ。半導体産業の競争力強化を目指す経済産業省も、業界全体の再編を視野に入れる。化学メーカー首脳の中には「非上場化を考えたことがある」という声もあり、非上場化のスキームが広がり再編の皮切りになる可能性がある。

また、JSRは非上場化を選択することで経営方針をめぐる外部との調整負担が軽減され、腰を据えた事業運営ができる。資金を株主還元から成長投資に充てることも可能になるなど「(非上場化で)事業戦略を打ちやすくなるだろう」(幹部)と社内の期待もある。26日開催の取締役会決議では「全会一致」による可決だった。

一方で、目下の課題は残る。「EPSが低下し、経営はあまり良い状況ではない」。経営幹部の1人は足元の状況についてこう漏らす。直近の決算では市況悪化による半導体材料の停滞や、医薬品製造受託の新工場稼働遅れなどの要因が重なり、当初思い描いたような実績を上げることができていない。

2025年3月期にコア営業利益で過去最高となる600億円以上を目指すが、「容易に達成できるとは思えない」(金融関係者)との指摘も出ていた。目指す姿の実現に向けた経営戦略が求められており、JIC傘下で事業価値をどう高めていくかが焦点となる。

日刊工業新聞 2023年月6月27日

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