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全固体電池・FCセル・車載OS…トヨタが市場投入へ、次世代技術をまるっと紹介

全固体電池・FCセル・車載OS…トヨタが市場投入へ、次世代技術をまるっと紹介

トヨタ自動車は乗用車、小型トラック、大型トラックのフルラインアップで、EVやFCV、水素エンジン車に関連する技術を一挙に披露した

トヨタ自動車が「モビリティーカンパニーへの変革」を実現するための技術やロードマップを打ち出した。電気自動車(EV)や車載電池、車載OS(基本ソフト)といった次世代技術を一挙に披露。キーワードに据える電動化や知能化それぞれの領域で、具体的な道筋を示した格好だ。今回披露した次世代技術の一部は、早ければ2―3年後にも市場投入される。持ち前の技術力に、苦手とされてきたスピード感を持った動きを組み合わせ、激化する競争に挑む。(編集委員・政年佐貴恵)

高性能・廉価・超薄型 電池、多彩に

▽航続距離1000キロメートル以上を達成する革新電池▽マニュアル操作ができるEV▽パワートレーン(駆動装置)をよけて床下搭載できる凹型水素タンク▽話の途中で遮っても応答する音声認識技術▽自律走行する車両組み立てライン―。

「これまで公開したことのない技術を90%まで出した」。中嶋裕樹副社長最高技術責任者(CTO)が宣言した通り、東富士研究所(静岡県裾野市)の技術展示会場には新技術が並んだ。

トヨタは先行開発を加速する

中でも目を引いたのが、次世代EVを実現するための車載電池技術と生産技術、そして水素関連技術だ。

車載電池はEVコストの3割を占めるとされる。EV事業の収益化に直結する性能向上や使用量・コスト削減を進め、2026年発売予定のプラットフォーム(車台)や作り方などを刷新した次世代EVに高性能版を搭載。その後、28年頃にかけて廉価版、超薄型といった電池の実用化を目指す。

トヨタが披露した主な次世代技術

全固体電池は、当初予定していたハイブリッド車(HV)向けではなく、27―28年の実用化を目指しEV向けで開発を進める。海田啓司カーボンニュートラル先行開発センター長は「耐久性のメドが立った。出すにはコストコンペティティブでなければいけない」と難しさを挙げつつ、世に先駆けて実用化したいとの思いをにじませる。

多様な電池を用意する理由について、中嶋副社長は「ニーズに応じて同じ車台で、電池を入れ替えられるようにしておくのが、我々の命題だ」と言い切る。

これは次世代EVの車体構造を前方部、中央部、後方部の大きく三つに分割する考えに基づく。搭載電池を含めた車両の構造自由度を高めるだけでなく、生産性向上が狙いだ。実現の中核を担うのが、生産工程や工場投資などを半減する「2分の1ライン」構想だ。

技術展示会では後部の車体構造を一括成形する工法「ギガキャスト」を披露した。これは米テスラも採用している手法だ。従来は86部品、33工程必要だった部品生産が、1部品1工程で可能になる。さらに金型を専用部と汎用部に分け、専用部のみを車両に合わせて変える方法を採用した。金型の数や交換の手間を削減することで、他社比で20%の生産性向上を実現できるという。

FCセル、耐久性倍増

水素関連では市場拡大が見込まれる商用車向けを軸に開発を進める。燃料電池(FC)セルは26年の実用化を目指し、現行品と比べて耐久性を2・5倍、コストを半減した次世代品の開発を進める。このほか水素市場が急速に成長する海外での現地生産を開始。中国では24年4月から、欧州では次世代品の量産を見据える。

トヨタは技術の公開に慎重だが、今回は具体的なロードマップを示した(米ノースカロライナ州で建設中の車載電池工場)

凹型の異形水素タンクの試作品も披露。水素タンクは圧力分散の観点から円筒形が一般的だが、搭載場所が限られ荷室や座席スペースなどが狭くなる課題があった。車体構造と一体化できる異形タンクで解決を図る。

知能化では車両のソフトを一括操作できる独自の車載OS「アリーン」による次世代音声認識技術を紹介した。人工知能(AI)を駆使し、自然に対話できるようにした。25年にアリーンを搭載した車を市場投入すると以前に示しており、次期グローバル量産車での実用化を予定する。

原則的にトヨタは、実現確度が高まるまで技術の公開に慎重だ。しかし世界のライバルが5年以上先の技術目標を先行的に打ち出し、投資を呼び込む動きを強めている。トヨタも他社との協業や電池投資を粛々と実施しながら未来像や自社の方向性を打ち出してきたが、具体的な技術やロードマップは見えづらかった。今回の技術披露で、その評価は覆りそうだ。

【主要発言】

東富士研究所での技術展示会では、次世代領域を担う二つの新組織の各プレジデントがプレゼンテーションした。主な発言は以下の通り。

◆EV航続距離1000km狙う BEVファクトリー・プレジデント 加藤武郎氏
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「次世代EVは電池と超音速技術により航続距離1000キロメートルの達成を目指す。電費は世界トップレベルだ。車体はフロント、センター、リアに三分割した新モジュール構造を採用。進化した電池を素早く積める。また大幅な部品統合や自動生産で、車両開発費や生産投資を削減する。生産工程や工場投資のほか、デジタルツインを活用した生産準備リードタイムなど、全てを2分の1にしたい」

「中国・比亜迪(BYD)との合弁事業で学んだのは、スピードと協業の広さだ。特に開発期間は14カ月と設定して進めたい。また顧客のニーズ変化が非常に早い。今まで我々が経験したことない技術領域や車載OS『アリーン』を含め、協業を広げて商品力を高める」

「26年から次世代EVの投入を始め、30年のEV新車販売350万台のうち170万台をBEVファクトリーから出していきたい。直近の2―3年で多くの技術を開発してきた。今は、それを一気に出す時期だ。ワンリーダーの元で意思決定と問題意識を同じくすることでスピードを高めるために新組織を立ち上げた。競合他社に打ち勝つスピードで商品を出す」

◆水素、中・欧で現地生産 水素ファクトリープレジデント 山形光正氏
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「30年予測では欧州、中国、北米の水素市場が圧倒的な規模となる。需要の大半は商用車だ。FCシステムでは30年時点ですでに、年10万台規模のオファーがある。市場の急激な変化に対応していく」

「市場のある国での開発・生産、有力なパートナーとの協業、FC技術の革新的進化に伴う競争力確保の三つの軸で事業を推進する。現地生産は中国では北京億華通科技と共同で設けた開発・生産拠点を使う。欧州は現地子会社を活用する」

「(提携を決めた)独ダイムラー・トラックとの協業機会を生かしながら欧州の他の完成車メーカーとも連携し、(FCシステムの)数をまとめて手頃な価格で提供したい。ダイムラーには『同じ規格でFCを作ってみないか』という投げかけもしたい。中国でも20年に設立した(現地メーカーとの)6社連合を活用して数のメリットを出していく」

「技術面では世界トップレベルの効率とコストで競争力を高める。技術進化、量産効果、現地生産により原価低減を実現。大型トラックではいろいろな完成車メーカーが興味を持っており、使いたいと思われるFCをしっかり作っていく」(水素ファクトリー7月1日付で発足予定)


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日刊工業新聞 2023年月6月13日

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