家電量販で年休111日…茨城34年ぶり更新、広がる「労働協約の地域適用」
地域での労働条件を統一する労働協約の「地域的拡張適用」の動きが目立ってきた。1日には茨城県が県内全域の大型家電量販店の正社員の年間所定休日を111日とする労働協約の地域的拡張適用を決めた。同じ内容の労働協約の拡張適用が更新されるのは34年ぶり。この動きが広がれば、賃上げによる経済成長につながる可能性もある。(幕井梅芳)
茨城県では、同じ内容の労働協約の拡張適用が2022年4月1日から実施されてきた。しかし、5月31日に期限を迎えることから、6月1日以降も同様の協約が継続できるよう、労使合意した「ヤマダデンキ」を展開するヤマダホールディングス(HD)とケーズHDの労働組合が22年7月に茨城県知事宛てに申し立てし、茨城県労働委員会で検討され、県知事による決定に至った。
同内容の労働協約の地域適用が実質的に更新されるのは、1989年以来34年ぶりとなる。今回の更新により、25年5月31日まで労働協約が継続される。
これ以外にも、労働協約の地域拡張適用をめぐる動きは活発だ。4月11日には、厚生労働省がヤマダHDとデンコードー(宮城県名取市)の労働組合が青森、岩手、秋田県の3県内の店舗について結んだ労働協約を、3県内にある他社の大型家電量販店にも適用することを決めた。対象店舗では正社員に年間111日以上の休日を与えないといけない。複数の県をまたいでの拡張適用はこれが初めてになる。
福岡市では、水道検針員の賃金の下限協約の拡張も審査中だ。
労働基準法に精通した古川景一弁護士は「決まったルールを守らないと他社は当該エリアに出店できない。労働条件の悪化に歯止めをかけ、『労働条件の底』をつくることができた」と意義を語る。
地域的拡張適用は、労働組合法上の仕組みによって当該地域において従事し、同種の労働者の大部分(約75%とみられる)が、当該企業の労働協約の適用を受けるに至った時に適用される。しかし、日本では大多数が企業別の労働組合だ。労組がない企業もあり、条件を満たすのは容易ではなかった。事実、30年以上、適用が認められなかった。
どうして、この重い扉が開いたのか。日本最大の産業別労働組合であるUAゼンセンが大きな役割を果たした。現在日本の大手家電量販店上位10社のうち、9社の労働組合がUAゼンセンに加盟しているためだ。
UAゼンセンの西尾多聞副書記長は「労働協約なので、経営者の理解がないとできない。労使の理解によって社会的成果が出せる取り組みだということを説明し、理解してもらう必要があった」とし、経営者の理解がないと進まないとの考えを示した。
複数県をまたぐ例や県内での更新が認められたことに、西尾副書記長は「これからさまざまなパターンが増えてくることが期待できる。そうなれば、組合の培ってきた集団的労使関係の恩恵を受ける労働者も増えてくる」と期待を寄せる。
労働問題に精通する法政大学経営大学院の山田久教授は「労働協約の拡張適用は、労働時間の最低基準に活用されたが、将来は賃金の最低水準として活用できる」とし、賃上げへの波及の可能性も指摘する。労働協約の地域的拡張適用は公正競争を促すだけでなく、継続的な賃上げの起爆剤となる可能性も秘めている。