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環境経営の重要ワード!SDGsとサーキュラーエコノミー

おすすめ本の抜粋「ケーススタディで学ぶ 環境管理の基礎知識」

持続可能な開発目標と事業の持続可能性・存在意義

持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み状況を定期的に評価し公表する企業が、ここ数年増加しています。自社の事業や社会活動とSDGsの17目標との関連性を“紐づけ”して、統合報告書などにSDGsの取り組み状況を掲載するのは珍しくありません。

SDGsは国連サミットで採択された、持続可能で多様性と包摂性(インクルージョン)のある社会の実現のための17の国際目標です。包摂性とは「誰1人取り残さない」といった意味です。2030年を年限とする17の目標、169のターゲットが2015年サミットで合意されました(表)。

表 SDGsの目標

人類や地球の存続基盤である環境をベースにして、社会や経済に関する目標も幅広く設定されています。これはすべてのステークホルダーが取り組むべき国際目標です。SDGsは上場企業から個人事業までビジネスの持続可能性や企業の存在意義を考えるときにも参考になるコンセプトです。

SDGsを敷衍(ふえん)して考えると、企業経営のサステナビリティを検討するときに次のような広範な課題にどう対処するのか、自社のビジネスに影響するのか、ビジネスチャンスはないのか、さらに進んで、情報技術ITやデジタル化・デジタルトランスフォーメーション(DX)、人工知能(AI)など先進ツールを活用できないか、なども必要になると思われます。

環境課題には気候変動(地球温暖化)、自然災害、水の問題、資源・エネルギー、生物多様性といったものがあります。社会問題では、新型コロナウイルスのような感染症、貧困、教育、人権、ジェンダー差別、先進国の少子高齢化、世界80億人の人口問題、戦争・紛争などが挙げられます。経済では、環境とも関連する、燃料高騰・供給不安、資源枯渇、原材料サプライチェーンなどに加え、南北問題・格差、社会福祉の財源、都市問題、失業など幅広い課題があります(環境・社会・経済の各課題はジャンルが相互に重複します)。

EUのサーキュラーエコノミー

欧州連合(EU)が導入したサーキュラーエコノミーは「循環経済」という意味で「CE」と略します。大量生産と大量消費の弊害で、資源枯渇と廃棄物の発生が問題となっています。そこで、使用済製品の再資源化などを強化して廃棄物ゼロをめざすCEの考えをEUは採用しました。

その具体策の1つが2023年以降に施行予定の「バッテリーパスポート」で、製品設計から製造、廃棄・再生までライフサイクル全体に及ぶ包括的規制になります。この制度はデジタルツインを利用する予定です。デジタルツインとは現実の世界で得た様々なデータを、まるで双子のように、コンピュータの仮想空間で再現するIT技術です。

バッテリーパスポートの電子記録を介してライフサイクルの各過程で排出された温室効果ガスの量など、多くの情報提供(アクセス義務)が決定されています。情報例として、リチウムなどの鉱山・材料原産地、材料や部品の生産者、セル・モジュール生産者、化学的組成(材料比率など)、リサイクル再生材含有率、性能、耐久性、製造時の炭素排出量、危険物含有、電池の健康診断、炭素排出影響、EU指令適合宣言、移動・収集、製品保有履歴、ライフサイクルの炭素排出量と環境影響などが想定されます。

日本貿易振興機構(JETRO)によると、EU理事会と欧州議会は2022年12月9日に現行バッテリー指令を大幅に改正するバッテリー規則案の暫定合意に達したと発表しています。規制対象は、産業用バッテリーと電動自転車・スクーター用バッテリー(2kWh超)、すべての電気自動車(EV)用バッテリーです。輸入品を含むEU域内で販売されるすべてのバッテリーを対象に、カーボンフットプリントの報告や原材料リサイクルなどに関する詳細情報を管理します。今後、QRコードを電池にラベル表示するなど様々な義務も段階的に適用される予定です。

図のEUサーキュラーエコノミーの理念に基づき、バッテリーに関しリサイクル原材料の最低使用割合なども示されます。また、SDGsに対応する責任ある原材料調達など大企業にサプライチェーンに対するデューデリジェンス義務も予定されています。

図 サーキュラーエコノミーの概念図(Ellen Macarthur Foundation)

東洋大学の廣瀬弥生教授がいうように、「欧州はCE実現により単に地球環境保護のためにコストをかけるだけの“対応”をしているわけではなく、自国の“強み”を活かした競争優位性を高める戦略を展開。多くの欧州製造企業では、環境政策をうまく取り入れて、CEを自社のデジタルプラットフォーム戦略の差別化要因として活用したビジネスモデルを構築し、収益増をねらう動きが出ている」状況です(月刊「環境管理」2022年6月号)。

日本経済団体連合会もCEの実現に向けた優れた提言を2023年2月14日に発表しています。

MEMO:デューデリジェンス義務

欧州委員会は「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令案(DD案)」を2022年に発表し、2023年1月に欧州27産業団体が意見書を提出。DD案は売上1.5億ユーロ、従業員500人など一定規模以上の事業者に、環境や人権に関するデューデリジェンスの実施を義務付けるものです。自社活動のみならず、子会社や原材料供給網などバリューチェーンで生じる環境影響(生物多様性含む)が調査対象になる見込みです。広範な環境リスク対応を求められるなど欧州と取引がある日本企業にも影響が生じると思われます。

ここがポイント!
◆ SDGsの環境、社会、経済に関する取り組み状況を企業は定期的に評価し公表
◆ サーキュラーエコノミーはIT技術を活用して循環経済をめざす
◆ ライフサイクルやサプライチェーンを網羅するバッテリーパスポート

(「ケーススタディで学ぶ 環境管理の基礎知識」p.170-173より抜粋)

<書籍紹介>
書名:ケーススタディで学ぶ 環境管理の基礎知識
著者名:大岡 健三
判型:A5判
総頁数:264頁
税込み価格:2,970円

<著者略歴>
大岡 健三(おおおか・けんぞう)
早稲田大学卒業。茨城大学大学院宇宙地球システム科学専攻単位取得満期退学(博士後期課程)。外資企業AIG東京本社環境保険室長 NY, Wall Street勤務経験、商品開発(新種保険部)部長、Specialty Line部長。汚泥処理会社のサラリーマン社長を経て、(一社)産業環境管理協会 出版・研修センター所長、月刊『環境管理』編集長(2014~2022)。早大、茨大の非常勤講師を経て、現在、法政大学、敬愛大学の非常勤講師、環境コンサルタント。
専門:環境地質学、環境科学、環境コンプライアンス
主な著書:『わかりやすい製造物責任の知識 改訂増補版』オーム社、『取説マニュアルのつくり方―訴えられないためのポイントを完全チェック』オーム社、『土壌汚染リスクと不動産評価の実務』共著、プログレス社

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<目次>
第1章 環境ビジネスとコンプライアンス
第2章 温暖化と水圏・地圏・生物圏
第3章 環境法
第4章 有害化学物質と汚水処理技術
第5章 SDGsとGHG・IPCC報告を読む
第6章 現場で耳にする環境問題と立入検査
第7章 知っておくべき環境用語集

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