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交付件数8826万枚、保険業界が意欲示す「マイナカード」利活用の中身

交付件数8826万枚、保険業界が意欲示す「マイナカード」利活用の中身

マイナカード情報を本格利用する段階に入った(イメージ)

マイナンバーカードの交付件数が8826万枚(7日時点)となった。運転免許の保有者数(8184万人)を上回る普及度合いとなり、本格的な利活用のステージに入った。民間分野でデータの利活用に意欲的なのが保険業界だ。従来の紙による本人確認書類の提出や健診情報の提供などが不要となり、顧客の利便性向上と事務手続きの効率化が見込まれる。一方で消費者には情報管理に不安の声もある。現状と課題を探った。(大城麻木乃)

保険会社はマイナンバーカードを活用し各種手続きの省略を目指す(イメージ)

「顧客の利便性向上や新たなサービス創出の可能性が広がる」―。生命保険協会の稲垣精二会長(第一生命保険会長)は4月中旬、マイナンバー制度を通じた保険分野でのデータ利活用に期待を述べた。

保険業界では、すでに一部で先行して取り組みが始まっている。代表例が年末調整に必要な生命保険料控除証明書の電子交付だ。マイナカードの保有者がマイナポータルサイトに利用者登録して必要な手続きを行うと、同ポータルサイト経由で控除証明書データが取得できる。

契約者のマイナンバー情報をデジタルで収集する取り組みも進む。三井住友海上火災保険は、保険会社から税務署長宛てに提出する支払調書にマイナンバーの記載が必要な場合、公的個人認証が可能な専用スマートフォンアプリを経由し契約者から情報を収集できるようにした。契約者はアプリでマイナカードを読み取るだけで、三井住友海上にマイナンバーを申告できる。

従来、紙のマイナンバー申告依頼書に必要事項を記入し、本人確認書類画像とともに提出する方法しかなかった。こうした手間が省けるほか、同社にとっても「紙の書類の目視チェックや手入力に関わる担当者の稼働時間の削減になった」と利点を語る。

保険業界のマイナンバー制度利活用をめぐる主な動き

マイナカードの機能をスマホに搭載する「スマホJPKI」が11日に解禁となり、今後、本人確認や個人情報提供の手続きがさらに便利になることが見込まれる。

マイナカードの「変更情報」を活用した保険手続きの簡素化も進む。日本生命保険と大同生命保険は、マイナカードの「失効情報」を基に、死亡保険金の受取人へ保険金の請求手続きを勧めるよう促す取り組みをはじめた。死亡保険金の受取人は故人が生命保険を契約していたことを忘れるケースが多い。失効情報を活用して保険会社から案内を出し、請求漏れの縮減を狙う。

明治安田生命保険はマイナカードの「有効情報」を活用し、年金受取人の生存を確認して顧客の指定口座への年金の支払いを自動化した。これまで契約者は住民票などの生存確認書類を定期的に提出する必要があったが、この手間が省ける。

住所・氏名変更情報、きょうから取得可能

今後、注目されるのは住所変更・改姓手続きの簡素化だ。河野太郎デジタル相は4月、基本4情報(住所・氏名・生年月日・性別)の金融機関などへの提供サービスを5月16日に始めると表明した。

実のところ、一部の生保では本人の同意を経た上で住所変更・改姓情報を取得する取り組みは始まっていた。だが、これまでは「変更した」ことは分かっても、変更後の住所や姓まではつかめず、あらためて顧客に契約書の情報変更を行うよう案内する必要があった。これが今後は変更後の情報まで保険会社側でわかるようになり、手続きの自動化が実現する。明治安田生命の場合で、7月から自動化に向けた本人同意確認などの周知活動が始まり、23年度中に自動化する予定だ。

24年度以降は、マイナポータル経由で健診結果が保険会社側に連携され、保険加入時に健診結果の提出が不要になったり、健康になると、保険料が割安になるプランに健診結果が自動で反映されたりする見通しだ。医療機関を受診した際の医療費・電子カルテの情報も連携され、書類を提出せずに給付金が自動で支払われるようになる見込みだ。

将来的には収集した情報を活用してより個人の健康状態に応じたオーダーメードの保険商品の開発につながる可能性を秘める。

契約者の同意は未知数、個人情報管理に不安も

マイナンバー制度利活用による生命保険会社提供サービスへの期待

生命保険協会は4月、「デジタル社会における生命保険業界の将来」と題した報告書を公表した。マイナンバー制度を通じた生命保険分野のデータ利活用に関する提言を盛り込んだ文書だ。同協会は17年にもマイナンバー制度の民間利活用に関する提言書を公表しているが、当時はまだマイナカードが普及しておらず、保険手続き面での利活用の機運は高まっていなかった。だが、今回はほぼ全国民に行き渡る勢いでマイナカードが普及しており、損保も含め、保険各社は真剣に利活用を考え始めている。

今後を占う上で課題は「社会受容性」と生保協会デジタル戦略ワーキング・グループ(WG)の川崎拓也座長は指摘する。健診結果の情報などを保険会社が自動で得るには、すべて本人の同意がいる。契約者が手続きの利便性向上のために情報提供に快く同意するかは未知数だ。

協会が22年12月に実施したマイナカードやその機能を搭載したスマホで利用できる生保会社のサービスに関する調査によると、6割強が「サービスを利用したい」「どちらかといえばサービスを利用したい」と解答した。一方、「利用したくない」と答えた人も4割近くおり、否定的に捉える人も一定数は存在する。

生命保険会社の情報取得について不安に感じる理由

また同じ調査で生保会社の情報取得について不安に感じる理由を尋ねたところ、「保険会社から外部への情報漏えい」が75・9%、「保険会社の目的外利用」が58・7%と上位を占めた。個人情報を扱う事業者として保険会社はすでに情報管理には細心の注意を払っているが、個人情報の自動取得の浸透に向けては、さらに厳格な管理体制が問われる。

最近は、コンビニエンスストアでマイナカードを使って住民票の写しを受け取れるサービスで、富士通の子会社である富士通Japanのシステムの不備により他人の証明書を誤交付するトラブルが発生した。システム事業者の信頼性向上は言わずもがなだが、こうした事業者と保険会社のデータ連携のあり方にも万全の注意を払う必要がありそうだ。

日刊工業新聞 2023年月5月16日

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