大手証券4社が減収…相場に逆風で求められる収支構造の改革
欧米の歴史的なインフレや金利上昇、金融不安などの逆風が吹く相場環境で、大手証券会社が苦戦している。証券大手5社の2023年3月期連結決算は、3社が減収、経常・当期減益、1社が減収、経常・当期赤字となった。各社は市況変動に左右されない資産管理型ビジネスモデルへの移行を目指しているが、まだ道半ばだ。資本効率の向上や収支構造の改善も迫られている。(編集委員・川口哲郎)
大手証券会社の業績に対する株式市場の評価は厳しい。株価を1株当たり純資産額で割った株価純資産倍率(PBR)は、野村ホールディングス(HD)が約0・5倍、大和証券が約0・65倍。1倍を大きく割れ、市場価値が解散価値を下回っている状況だ。
野村HDは23年1―3月期の株主資本利益率(ROE)が0・9%と、経営目標の8―10%を大幅に下回った。北村巧執行役財務統括責任者(CFO)は「目標の達成が何よりも重要で、ポイントは収益の安定化、多様化」と認識している。
営業部門の収益性改善に向けて25年3月末までに200億円程度のコスト削減を目指す。「IT基盤が少し乱立している状況」(北村執行役)とし、システム関連費用を中心に削減を図る考えだ。
大和証券はPBR改善に向けて「まずはROEを高め、資本コストを引き下げる。成長期待を高める」(佐藤英二専務執行役CFO)方針だ。特に事業ごとの資本収益性の監視に乗り出す。法人部門の「グローバル・マーケッツ」は50億円のコスト削減に取り組み、その一環で欧州のミドルバック部門やアジアのリサーチ部門を集約している。
大和証券は資産管理型ビジネスモデルへの移行により収益の安定化を図る考えだ。投資一任契約を結ぶファンドラップは、23年3月期の契約資産残高が過去最高の3兆954億円となった。
三菱UFJ証券HDは23年3月期連結業績で株式などの手数料収入が減少する中で、株式投資信託などの「その他の受入手数料」は前期比5%増と拡大を続けた。傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券の預かり資産残高は同4・5%増の46兆円と過去最高を更新。「営業戦略を切り替え、着実に預かり資産が増加している」(山本慎二郎取締役常務執行役員)と要因を分析する。
みずほ証券は23年3月期におもに個人対象の「リテール・事業法人」の純営業収益が同30・3%減と苦戦した。「顧客本位を追求する業務運営を土台に、顧客一人一人にあった商品を提供し、預かり資産を増やしていきたい」(浅井覚常務執行役員CFO)とする。営業員の行動様式を分析、支援するシステムなどを活用し、付加価値の向上に注力する。
SMBC日興証券は相場操縦事案の影響により営業赤字、当期赤字に沈んだが、足元の収益は回復傾向にある。ポートフォリオ・コンサルティングの推進などにより、1―3月期の資産導入が4495億円と7四半期流入超となった。「4月から新中期経営計画が始動したため、良い形のリスタートを切りたい」(吉岡秀二専務執行役員)としている。
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