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広がる「ポイント投資」、証券大手が赤字覚悟で顧客拡大を狙うワケ

広がる「ポイント投資」、証券大手が赤字覚悟で顧客拡大を狙うワケ

買い物でたまるポイントを使って気軽に投資できる(イメージ)

日常生活で買い物などを通じてたまる「共通ポイント」を使って、株式を購入したり疑似的に投資して運用したりする「ポイント投資」の導入が大手証券会社で広がっている。証券各社は、ポイントを使って気軽に投資できるメリットを訴求し、20―40代の若年層を呼び込み顧客の裾野を広げたい考えだ。現状では証券会社の顧客は高齢の富裕層が中心。ポイント投資をテコにして長期目線で次世代の顧客の獲得を目指す。(取材・高島里沙)

7月、大和証券グループ本社子会社のCONNECT(コネクト)は、三菱商事系の共通ポイント「ポンタ」やクレディセゾンの同「永久不滅ポイント」を運用できるポイント投資を始めた。野村ホールディングス(HD)、SMBC日興証券に続くポイント投資のスタートで、大手証券が出そろった格好となる。

大手証券によるポイント投資は産声を上げたばかりだ。先駆けとなったのはLINE証券だ。同証券は野村HDとLINE子会社が共同出資で設立し、19年11月に「LINEポイント」を使えるポイント投資を始めた。SMBC日興証券では、この3月から投資情報メディアの「日興フロッギー」を通じてNTTドコモのdポイントで株を購入できるようになった。

記事の中に登場する銘柄に投資できる(日興フロッギーの記事一覧画面)

これだけの短期間に出そろったのは、気軽さが売りのポイント投資が若年層に対して投資への敷居を下げるのに有効だと考えられているためだ。実際SMBC日興証券では、ポイント投資の開始前後で、日興フロッギー経由の口座開設数が7倍に増えた。増加の要因には新型コロナウイルス感染症による巣ごもり需要も含まれると思われるが、ポイント投資を始めたことも要因だったとみられる。各社でポイント投資による若年層の掘り起こしに期待がかかる。

課題もある。短期的には収益が見込めない点だ。システム構築・運用に少なくない費用がかかる一方、若年層の投資額は低くなりがちで大きな手数料収入は見込めないからだ。それでも各社が注力するのは、10―30年後にポイント投資の若年顧客が将来の重要顧客になりうるため。当初はネット証券を使っていたとしても、資産が増え、高齢になると営業員を付ける対面型の資産運用に移行するとみる。

SMBC日興証券は顧客層を(1)対面中心の60代以上(2)インターネット中心の40―60代(3)20―40代―の三つに分類する。丸山真志ダイレクトチャネル事業部長は、「従来の対面中心のビジネスとは、(収益を得られる)時間軸と顧客層が全く異なる」と話す。同社においてもこれまでは富裕層向けサービスに注力してきたが、デジタル化が進み次世代投資家の取り込みを狙う。長期目線で「お客の取引手法が年齢とともに推移していくこともあるだろう」(丸山ダイレクトチャネル事業部長)と見込む。

大和証券グループ本社の中田誠司社長は「ネット証券でやりとりする若者が、50―60代になって大きな資産をもった時は、自分ではやらず証券会社に運用を任せる」と期待をにじませる。

各社は長期目線の赤字覚悟でポイント投資によりファン獲得を目指す。今後もサービスを継続的に改善し魅力を高める必要がある。目先の収益が見込めない中で、システム投資を継続していけるか、体力勝負の側面もある。

大手証券とネット証券との競争の行方も見逃せない。楽天証券は「楽天ポイント」を、SBIネオモバイル証券は「Tポイント」をそれぞれ運用する。ネット証券の顧客層は元々若年層がメーンであり、大手証券がポイント投資で呼び込む層と重複する。ポイント投資をテコにした大手証券による若年層の取り込みが浸透すれば、ネット証券にとっても脅威になる。

日刊工業新聞2020年7月24日

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