黒字化急ぐシャープ、打ち出した技術開発の新たな方向性
シャープが技術開発の新たな方向性を打ち出した。人工知能(AI)、ロボティクス、第6世代通信(6G)、クロスリアリティー(XR)、環境、宇宙の6分野に注力する。2023年3月期連結決算は当期赤字に転落する見通しだが、呉柏勲社長は24年3月期の黒字化を目指すとともに、将来に向けて「社員の意欲を高める」と意気込む。中長期の視点での活動を推進し、革新的な製品の創出につなげられるか試される。(編集委員・安藤光恵)
17日に千葉市美浜区で開いた創業111周年の記念イベントで、呉社長は、注力6分野における具体的な技術戦略や製品を11月11日に開く展示会「テクノロジーデー」でお披露目する計画を示した。「111周年の1が並ぶ、めでたい日を目指して社内を盛り上げたい」(呉社長)。
シャープは2月に、23年3月期の営業損益の予想を250億円の黒字から200億円の赤字へ下方修正した。従来の主力であるディスプレー事業で最終製品の需要が減速。この状況を呉社長は「外部要因が大きかった」と分析する。黒字化を急ぐ一方で、「ディスプレー事業はシャープだけでなく日本にとって重要。引き続き一丸となってやっていく」(同)とした。注力6分野でもディスプレーを活用していくという。
赤字脱却のために親会社である台湾・鴻海精密工業からの追加出資を受ける可能性は現段階では低そうだ。呉社長は「鴻海は重要な株主」とした上で、「互いの経営資源は使っていきたいが、独立性を保ったままの関係とする」と強調した。独自の新たな収益源の確保を目指して技術開発の新機軸を打ち出した格好だ。6分野については「シャープのブランドを支えていく事業となる」と期待をかける。
研究開発本部長を務める種谷元隆常務は「世界で起こっている技術革新は興味深く、シャープの強みを生かせる」と自信をのぞかせる。111周年記念イベントでは四つの技術を紹介した。内訳は16年から835機種の実績を重ねてきたAI家電、長年の太陽電池技術を活用できる次世代のペロブスカイト太陽電池、電力をほとんど使わないディスプレーを実現する電子ペーパー製品、どこでも接続できるプレ6G。11月には、さらに多様な技術や製品を披露する方針だ。
ただ、足元の業績が厳しい中で技術開発を進めるに当たっては、限られた経営資源を効率的に活用する必要がある。最高財務責任者(CFO)の陳信旭専務執行役員は設備投資の必要性を否定しないものの、「人への投資を特に重視して行っていく」と、人材育成を成長エンジンとする方針を示した。
呉社長は「社員には創業者精神を持ってほしい。全社で共通認識を持てれば目標を成し遂げることができる」と強調した。社員の意欲や能力の向上に取り組みつつ、11月には足元の収益源と長期的な展望の両方を示せるか、手腕が問われる。
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