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立ち上がる「V2B」市場…ニチコン先頭、追うパナソニック・オムロンの攻防

立ち上がる「V2B」市場…ニチコン先頭、追うパナソニック・オムロンの攻防

EVと家庭用蓄電池の同時充放電が可能なパナソニックのV2Hシステム「エネプラット」。

電気自動車(EV)の普及拡大を背景に、EVとビルの間で電力を相互供給する「V2B(ビークル・ツー・ビルディング)」市場が立ち上がってきた。エネルギーを効率利用できる利点に加え、事業継続計画(BCP)に役立つ点も評価される。「B」を「H(ホーム)」に変えたV2Hへの関心も高まる。自動車メーカーや機器メーカー、システムを導入するゼネコンなどの取り組みを追った。(特別取材班)

エレベーター、停電時10時間稼働

停電で止まったビルのエレベーターをEVで動かせないか―。日産自動車と日立ビルシステム(東京都千代田区)は、自然災害に伴う停電を想定し、日産の軽EV「サクラ」からの給電で、日立のエレベーターを継続運転させる実証実験を1月まで約3カ月間にわたり実施した。

東京都足立区にある日立ビルシステムの6階建ての試験棟を利用。容量20キロワット時の車載バッテリーからの給電で、実利用と同等の重りを載せたエレベーターを低速で10時間往復運転し、263回連続で往復昇降させることができた。

結果を受け両社はEVからビル設備に給電するシステムの普及に向け協業を進める。日立ビルシステムの高橋達法取締役は「いろいろな顧客にご協力いただきながら(異なる条件の)データを収集していく」と語る。同システムを2023年中に実用化したい考え。

V2B/Hは電力変換装置(PCS)や充放電機器を介してEVとビルや住宅を接続し、電力を融通できるようにする。EVの電力をビルに供給し停電時の電力を確保したり、系統から購入する電力の削減につなげたりする。一方、ビルや住宅の太陽光発電でつくった電力でEVを充電することもできる。

22年のEVの国内販売台数は前年比2・7倍の5万8813台で今後も伸びが見込まれる。それに伴ってV2B/Hビジネスも伸びる見通し。富士経済(東京都中央区)は、自動車用充放電器市場が23年度は21年度比4倍の117億円と急拡大し、35年度には同16倍の465億円になると予測する。ビジネスチャンスを逃すまいと関連企業が事業展開を積極化する。

PCSとセットでリース提案/社員寮をモデルハウスに

自動車メーカーはEVのほか、EVと同様にV2B/Hシステムを構成できるプラグインハイブリッド車(PHV)の価値を高めるため、他社との協業を加速している。

三菱自動車は、22年9月に新電力の湘南電力(神奈川県小田原市)と協業し、同社の協力を得た形でのEVやPHVの販売を23年に本格始動した。湘南電力の太陽光発電システム「かながわ0円ソーラー」の販売時にV2Hの利便性をアピール。興味を持った顧客を三菱自の販売会社に紹介し、同販売会社がEV「eKクロスEV」や「アウトランダーPHEV」を提案する。

EVとPCSをセットにしたリースを提案するのは、オートリース大手の日本カーソリューションズ(NCS、東京都千代田区)だ。PCSの導入検討から補助金申請、導入後の運用面までワンストップでサポートする。パートナー企業と連携しPCSの設置工事や脱炭素に向けたエネルギーマネジメントなどにも対応する。

当初はコンプライアンスやBCPに熱心な大企業をターゲットの中心に据えていたが、現在は「中小企業も業種問わず関心が高い」(同社)。空調・エレベーターなど業務用の施設や機械を作動させるような活用も広がっているという。

三井住友建設は愛媛県新居浜市に完成した社員寮に、EVの電力を建物に供給する独自の「コネクティッドEVシステム」を初めて導入した。エレベーターや給排水ポンプのほか、冷暖房や照明、コンセントなどで利用。長期の停電時にも建物の機能を維持する。

平常時にも建物の電力使用量を抑えたり、建物の太陽光発電システムや蓄電池からEVを充電したりできる。この社員寮を「モデルハウス」としても活用。停電時にも自宅で生活を続けられる仕組みとして訴求し、主に高層マンション向けに展開する。

大阪市は21年度に生野区役所にPCSとEVを1台ずつ導入し、電力を相互供給するシステムを構築した。既設の太陽光発電装置の出力の半分の5キロワットをPCSに振り分け、EV充電や同区役所への電力供給に活用している。停電時はEVを非常用電源として活用できることをイベントや防災訓練で示し、V2B/Hの普及に向け啓発を図っている。

23年度以降は同システムでのエネルギー効率利用を裏付けるデータを取得し、効果を証明する。

機器展開、競争本格化

V2B/Hシステム市場では、ニチコンが先頭を走る。同社は12年に世界で初めて同システム「EVパワー・ステーション」を発売した。安全性や性能を保証する電気安全環境研究所(JET)認証を他社に先駆け取得し、国内で市場シェア9割を握る。

強みは価格の低さ。一般的なV2Hシステムが100万円前後する中、同社最安値モデルの希望小売価格は49万8000円(消費税抜き)。旺盛な需要に対応するため、京都府亀岡市の工場に約20億円を投じ、同システムや家庭用蓄電池の新棟を建設する。24年の稼働を目指しており、既存棟の増強と合わせ、V2B/Hシステムの生産能力を倍増させる。

後を追うのがパナソニックオムロンだ。パナソニックは2月、業界で初めてEVと家庭用蓄電池の同時充放電が可能な同システム「エネプラット」の受注を始めた。太陽光発電による余剰電力を抑え、自家消費を最大化できるのが特徴。一般的なオール電化住宅の4人家族の場合、電気料金を約6割低減できる計算になるという。

ニチコンが手がけるV2Hシステム「EVパワー・ステーション」(同社提供)

パナソニックの中嶋慎一郎エレクトリックワークス社エネルギーシステムSBU長は「太陽光の電力を容量が異なる2台の電池に充電できる技術を応用し、同時充放電を実現した」と説明する。

オムロン子会社のオムロンソーシアルソリューションズ(東京都港区)は、国内の他社製品と比べ最小・最軽量という同システム「KPEP―Aシリーズ」を5月をめどに発売し勝負に打って出る。PCSと充放電機能を持つEVユニットを分離し、狭い場所へも設置できるのが特徴。重さはそれぞれ25キログラム前後と、作業者1人で持ち運びや取り付けが可能。機器運搬や施工工事のコスト削減にもつながる。住宅をメーンに商業施設やオフィスなどへの販売も想定する。

そのほかシャープがEVの普及状況をみながら24年春にV2H事業への参入を見据えている。

日刊工業新聞2023年3月6日

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