ニュースイッチ

投資マインド冷え込み、22年度のIPO調達額は4割減

2022年度の新規株式公開(IPO)はSMBC日興証券調べで、資金調達合計額が前年度比40%減の4108億円となった。米国の金利上昇などで株式市場が軟調に推移し、投資マインドの冷え込みにより資金流入が減少した。1件当たり調達額は減少し、総額1000億円以上の大型案件も出なかった。23年度は投資家の姿勢も上向きに転じ、調達額が拡大する公算が大きい。(編集委員・川口哲郎)

22年度の新規公開社数は93社となり、21年度から27社減少した。ただ社数、金額ともに19―20年度と同程度の水準であり、IPOが活況だった21年度からの反動減といえる。21年度は低金利下でリスクマネーの供給が潤沢で、IPO案件に豊富な資金が集まった。22年度は一転して欧米の金利が急上昇し、機関投資家の姿勢は厳格になり、特に赤字企業の資金調達が苦戦した。

他方で、業績が堅調な企業は厚みのある資金調達ができた。東証プライムに上場したソシオネクストのオファリング総額(上場時の公募と売り出しを合わせた額)は768億円と22年の企業別で首位。同じくプライム上場の大栄環境はオファリング総額498億円と幅広い投資家の資金を集めた。SMBC日興証券の斉藤宗一郎第一プライベート・コーポレート・アドバイザリー部長は「両社ともにしっかりと利益を出しているため、資金が集まった」と分析する。

23年度のIPO環境は「将来の分析や説明をできる材料があれば、22年度と比べて上場しやすい」(斉藤部長)とみられる。12日に東証グロースに上場したispace(アイスペース)は、上場日終値が公開価格対比4・7倍の1201円で引けた。23年3月期、24年3月期は営業損失の予想だが、将来の売り上げの契約がすでに取れているため、業績拡大の可能性を投資家が評価した形だ。

20日に東証スタンダードに上場した南海化学は公開価格を45・6%上回る2533円で初値を付け、取引終了までにストップ高水準まで上昇した。老舗化学品メーカーとしてニッチ市場に特化し、安定した収益性が評価された。

4月に入ってからのIPO案件はこれまで慎重な姿勢だった機関投資家の取引が増えており、「風向きが変わってきた」(同)という。アイスペースは本邦初の宇宙企業の上場案件として内外の注目を集め、海外投資家の取引が60%に達した。

国内IPO市場は大型案件の有無によってオファリング総額にバラつきがあり、日本郵政が上場した15年度やソフトバンクが上場した18年度は突出している。ただ、これら超大型案件の影響を除けば、件数も金額も右肩上がりで成長するトレンドは描けていない。

政府はスタートアップに総額10兆円程度の投資を計画し、時価総額1000億円以上のユニコーンの100社創出を目標に掲げる。現状では資金供給の担い手が少なく、スタートアップの支援体制が課題だ。国内IPO市場の活性化に向けて「未上場企業の調達環境を変えることで本当の意味でのユニコーンが増えてくる」(同)と期待される。

日刊工業新聞 2023年04月26日

編集部のおすすめ