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仕入れ値高騰で苦境の「地域新電力」、経営安定化のカギはどこか

仕入れ値高騰で苦境の「地域新電力」、経営安定化のカギはどこか

千葉県内のメガソーラー施設

自治体や地元企業が出資して設立した「地域新電力」が苦境に立たされている。電気の仕入れ価格が高騰して経営環境が悪化したためだ。地域新電力を支援する専門家は「再生可能エネルギー電気の調達拡大が経営安定化のカギだ」と指摘する。地元の中小企業も再生エネ普及に協力することで二酸化炭素(CO2)排出ゼロの電気を安定的に購入できるメリットを生かせるか。

帝国データバンクは3月末、地域新電力を含む新電力全体の27・6%に当たる195社が契約停止や撤退、倒産の状況にあると発表した。22年3月時点の31社から1年間で6・3倍に増えた。電力の市場価格高騰が長引いて調達コストがかさみ、大手のガス会社や電力会社が出資する新電力も倒産に追い込まれた。

地域新電力20社以上が加盟する一般社団法人「ローカルグッド創成支援機構」の稲垣憲治事務局長は、「地域新電力に限ると撤退や倒産の割合は低いのではないか」と語る。地域貢献を理念に掲げており、自治体や地元企業から支持を得られているようだ。

もちろん地域新電力も経営努力をしており、電力料金の値上げでしのいでいる状況だ。また、電力の先物取引に活路を見いだす地域新電力も少なくない。金額を決めて将来の購入を約束するので、調達コストの変動を回避できる。

また稲垣事務局長によると、再生エネ発電事業者との相対取引を増やそうと努力している地域新電力も少なくない。地域新電力の多くは発電設備を持たず、固定価格買い取り制度(FIT)の認定を受けた再生エネ発電所の電気を仕入れている。制度上、調達費は市場価格と連動するため、再生エネ電気の仕入れ費用も跳ね上がった。相対取引なら交渉次第で固定価格で長期間調達できる契約を結べるので経営を安定化できる。

今後、地域と協力して自前の再生エネ発電設備を増やすことが課題となる。「企業や公共施設の敷地内なら太陽光パネルを早く導入できる。これから地域新電力は調達力が必要となる」(稲垣事務局長)と助言する。地元企業も設置場所を提供し、発電した電気を購入すれば安定した価格でCO2ゼロの電気を利用できる。

FIT後の風力 狙い目

地域新電力の調達力向上の手段として、再生可能エネルギー推進機構(東京都新宿区)の三宅成也社長は既存の風力発電所に着目する。自治体が主導して設置した風力発電所の多くが、FITによる売電終了を迎えようとしている。FIT期間中は発電した電気の買い取りが保証されていたが、終了後は発電事業者が売電先を探さないといけない。自治体の中には改修費を懸念し、放置や撤去する動きが出ている。地域新電力が売電先になれば、風力発電所を有効活用できる。新電力出身の三宅社長は、風力発電所を地域新電力に紹介するほか、金融機関と交渉して改修費の調達を支援している。

福島県いわき市では山間部で大型風力発電施設の建設が進められている

さらに「地域に再生エネ電気の使用権を与え、地元優先で消費するようにすべきだ。地元で使い切れなかった電気を“輸出”すれば、地域は“外貨”を獲得できる」(三宅社長)と提唱する。現状は逆で、地方にある大規模発電所の多くは地域外の大企業が保有し、売電収入は都市部に流出している。さらに、再生エネ電気の購入者も都市部の企業であることが多く、地方に恩恵は少ない。

地元優先で再生エネ電気を使えれば、地域は脱炭素化で先行できる。価格決定にも地域が関与できれば、安価な電気を求める企業の進出も期待できる。発電事業者も地元貢献をPR可能だ。

再生エネの“地産地消”を実現するために地域新電力の役割も欠かせない。16年の電力小売り全面自由化後、各地に立ち上がった地域新電力の真価が問われている。

日刊工業新聞 2023年04月07日

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