ニュースイッチ

EV市場で勝ち抜く、トヨタ・日産・ホンダ…それぞれの「コスト低減策」

EV市場で勝ち抜く、トヨタ・日産・ホンダ…それぞれの「コスト低減策」

トヨタが30日に発売したレクサス初のEV専用車「RZ450e」

電気自動車(EV)市場の拡大を受け、車各社が戦略を本格化している。重要な競争軸の一つはコスト低減策だ。トヨタ自動車は専用のEV車台(プラットフォーム)を開発し、日産自動車は部品の共用を広げる。先行する米テスラは新たな生産手法への挑戦を打ち出した。欧州連合(EU)は合成燃料の利用に限り、2035年以降もエンジン車の新車販売を認めた。ただEVを中心に脱炭素を進める方針は変わらず、各社の競争は激しさを増す。(西沢亮、名古屋・政年佐貴恵)

トヨタ 26年目標「レクサス」で開発

「26年を目標に、プラットフォームや電池などをEVに最適化した車を高級車ブランド『レクサス』で開発する」。2月、トヨタ次期社長の佐藤恒治執行役員は、こう宣言した。この計画について、ある関係者は「元々は27年の予定だったが、1年早めたようだ」と事情を明かす。

現状のトヨタのEV専用プラットフォーム「e―TNGA」は、既存プラットフォームとの共通部分を残し、既設生産ラインを活用することで初期投資を抑える思想が盛り込まれた。しかし設計に制約があり「純粋にEVとしての魅力向上を図った米テスラなどと比べると、性能や使い勝手で劣る」(自動車メーカー関係者)。

地域のエネルギー事情などに適した車両を展開する「マルチパスウェイ」は堅持しつつ、EV事業では「EVファースト」のモノづくりやビジネスモデルの構築に踏み込む。

現状のe―TNGAについても、EVに適した新設計の改良型を24―25年にかけて投入する構想が動きだしている。あるトヨタ幹部は「(EVでも)時代に合わせて必要な最新技術を入れていく」と説明する。

またトヨタは米ケンタッキー州の工場で、25―26年のEV生産開始を検討している。ただ計画は流動的。トヨタは一般的に、10万―20万台規模を目安に車両生産ラインを構築する。22年の米EV市場はテスラの「モデルY」こそ20万台以上を販売したが、これに次ぐ米フォードの主力EVモデルなどは5万台にも届いていない。

一方、米国ではインフレ抑制法に基づき、車載電池やEVの現地調達・生産を求める動きが強まっている。一部では規制に応じて米国生産の時期を24年頃に早めるべきではないか、との意見もささやかれる。あるトヨタ幹部は「採算の取れるまとまった量の販売が見込めるのか、規制にいかに対応するのか、慎重に見極めなければいけない」と、実情に合わせて柔軟に対応する姿勢を示す。

トヨタのEVへの本気度は、製造面でもうかがえる。ある設備メーカー関係者は「トヨタは4000トンを超える、大型プレス機の活用を模索しているようだ」と明かす。大型部品の生産体制を整え、車体を構成するユニットをある程度のブロックに一体化して効率良く生産し、コストを下げる構想だ。「EVで出遅れている」と言われてきたトヨタだが、水面下での動きは着実に加速している。

日産 部品共用化、パワートレーンユニット開発

日産自動車は部品の共用化を戦略的に進めコスト競争力を向上する。そのカギはエンジンを発電のみに使い、モーターで駆動する独自のハイブリッド車(HV)技術「eパワー」。モーターなどの基幹部品を軽EV「サクラ」やHV「ノート」といった複数の電動車間で共用してきた。

日産の横浜工場(横浜市神奈川区)のモーター生産ライン

この戦略をさらに進めEV向けにモーター、インバーター減速機の3部品を、HV向けに同3部品に発電機と増速機を加えた5部品を一体化した次世代電動駆動装置(パワートレーン)ユニットを開発。両ユニットを混流生産し、26年までにユニット単体のコストを19年比30%削減する。EVでは同ユニットの搭載と全固体電池の採用で「30年くらいにガソリン車とほぼ同等の車両コストを目指す」(平井俊弘専務執行役員)方針だ。

部品の共用は仏ルノーとの連合(アライアンス)間でも拡大。三菱自動車とは既にプラグインハイブリッド車(PHV)で、日産のEVと同じ電池やモーターを採用する。加藤隆雄社長は「日産とは常にいろいろな部品を共用できないか検討している」と述べる。

ホンダは米ゼネラル・モーターズ(GM)と電池や車台を共通化したEVを開発し、24年に北米で発売。さらに量販価格帯のEVシリーズの共同開発も進め、27年以降に世界展開する。両社の工場で互いに生産できる設計も取り入れ、シリーズ累計で数百万台の生産規模を見込む。

テスラ 組み立て工程改革、売上原価半減

EV最大手のテスラは車両組み立て工程の改革に取り組む。車を前後部、床部分の中央部、ドアを取り付ける左右側面部、ドア類などの各ユニットに分け、それぞれ内装などをサブアセンブリーし、車両全体の組み立てを1回で終える工程に見直す。現状は他の車メーカーと同様にプレス、車体組み立て、塗装、最終組み立ての各工程を採用する。次世代工程では作業性の改善などで組み立て効率を40%向上し、売上原価を現行の「モデルY」と比べ半減する計画だ。

メキシコに新工場を建設し、23年にも次世代工程の導入を予定。調査会社マークラインズの吉川正敏執行役員は「課題もあるが、実現できれば革新的な手法」と評価する。

テスラは当初から大衆車と比べ2ランク上の車体剛性を採用し、独BMWといった高級車と同等の運動性能を実現するなど独自の車両開発を指向。約70の部品で構成していた車体骨格部品を、「メガキャスト」と呼ばれる一体鋳造で一つまとめるなど革新的な生産手法も取り入れてきた。この一体鋳造もコストダウンより車体剛性を高める効果が大きいとされ、乗り味を含めた理想の車を追求する。

後発メーカーはこれまで先行メーカーをまねるのが一般的だが、吉川執行役員は「テスラは自社技術で最先端を競うことにこだわっている」と見る。例えば電子基板や半導体を含めインバーターを自ら設計して内製するのは珍しく「モノづくりに精通したいという強い意志が既存の完成車メーカーとの大きな違い」と指摘する。

ただ日産やBMWがEV技術や機能でテスラに遅れているわけではなく、コストの大半を占める電池でも調達価格に大きな差はないとされる。それでも販売台数に差が出る要因としてある車メーカー幹部は、無線通信でソフトウエアを更新するOTA(オーバー・ジ・エア)とハードを組み合わせるなど「他社と異なる領域に商品を出し、ブランドイメージをうまく作り上げている」と分析する。

中国の比亜迪(BYD)も電池や半導体を自ら手がけており、吉川執行役員は「理想の車を実現するため内製技術を磨く手法はテスラに似ている」と見る。EUは35年以降も合成燃料に限りガソリン車の新車販売を容認したが、EVを中心に脱炭素を目指す基本方針を堅持する。日系車各社のEVでの巻き返しが期待される。


【関連記事】 EV普及へコストを下げられない企業は市場追放!電池材料メーカー“最後の戦い”
日刊工業新聞 2023年03月31日

編集部のおすすめ