“黒船”脅威になるか…日本のEV市場に参入したBYDの実力
基幹部品内製化、高機能・低価格アピール
中国・比亜迪(BYD)は、日本向け乗用電気自動車(EV)の第1弾となるスポーツ多目的車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」を発売した。強みとするバッテリー開発力で優れた航続距離性能や安全性を実現すると同時に、重要部品の内製化でコストを抑え、戦略的な価格を実現。店舗での対面販売やアフターサービスでブランドの信頼を高め拡販を図る。過渡期にある日本のEV市場に乗り込んできた“黒船”は、日本車メーカーの脅威となるか。(増田晴香、石川雅基)
実店舗でサポート充実
1月中旬に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開かれたカスタムカーの展示会「東京オートサロン」。異彩を放ったのが、BYDの展示ブースだ。1月31日に発売したATTO3のほか、日本市場に年内に順次投入する小型車「ドルフィン」、セダン「シール」のEV3モデルをずらりと並べた。EV先進国である中国メーカーの本格参入に来場者は興味津々の様子だった。
日本向け第1弾となるATTO3は、2022年2月に中国での発売を皮切りに、順次豪州やタイでも販売を開始した。同10月末までに世界で累計14万台以上を販売し、人気モデルとなっている。もともとはバッテリーメーカーであるBYDの強みを生かして開発したリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を搭載し、安全性を向上すると同時にエネルギー密度も高め、充電1回当たりで航続距離485キロメートル(WLTCモード)を実現した。
また先進運転支援システム(ADAS)では同一車線内走行支援機能や死角をサポートする機能、アラウンドビューシステム、自動緊急ブレーキシステムなどを標準装備。自動車安全性能を認定する「ユーロNCAP」で最高評価となる五つ星を獲得した。
価格は440万円(消費税込み)。日本での販売を担うBYDオートジャパン(横浜市神奈川区)の商品企画部の小口武志部長は「長い航続距離や先進安全装備といったスペックと、手の届きやすい価格を両立した」とアピールする。
BYDは電池、モーター、コントローラー、パワー半導体などEVの基幹部品を自社で開発・製造している。小口部長は「垂直統合型によりコストコントロールがしやすく、外部からの影響を受けにくい」と明かす。また「既に中国を中心に販売実績があり、量産効果が出ている」(同)こともコスト低減につながっている。他社EVの納期が長期化しているなか、安定供給もアピールポイントになりそうだ。
日本市場でEVは普及拡大への分岐点にある。ただ選択肢はまだ少ない。軽自動車では日産自動車「サクラ」/三菱自動車「eKクロスEV」が230万円台からと、EVとしては安価な価格を実現。一方、登録車では日産自動車「アリア」が539万円(同)から、韓国・現代自動車「IONIQ5(アイオニック5)」が479万円(同)から、米テスラ「モデルY」が579万9000円(同)からと、いずれも450万円を超える。
これらに対し、440万円(同)のATTO3は価格面ではトップクラスの競争力があり、価格に敏感な消費者にとっては有力な選択肢となる可能性はある。
米テスラを脅かす勢い 乗用EV販売2.8倍
BYDは販売戦略でも特徴を出す。BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は22年7月の発表会で「実店舗で現物体験やサポート体制、アフターサービスを充実させ、安心を提供する」とした。テスラや現代自動車がオンライン販売に軸足を置いているのに対し、BYDはディーラー網を構築し、対面販売にこだわって顧客からの信頼を高める方針。25年までに全国に100店舗のディーラーを構える計画で、ATTO3の発売に向け1月から15都道府県に22店舗を設置している。
BYDは中国を中心にEV販売を伸ばしシェアを拡大している。22年の乗用EV販売台数は前年比2・8倍の91万台で、米テスラの131万台を脅かす勢いだ。日本でもEVバスの販売で先行して足場を築いており、乗用車でも一気に存在感を高める可能性はある。
ただ乗用車では「過去の実績が全くないなかで、(一般消費者の)選択肢に入ることは非常に難しい」(SBI証券の遠藤功治企業調査部長)との声も上がる。まずは試乗体験などを通じて一般消費者に性能や質感を訴求し、EV購入時の選択肢に入ることが必要となる。その第1ステップを乗り越えれば、高い価格競争力が威力を発揮し、日本車メーカーが侮れない存在になりそうだ。
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