ニュースイッチ

人工知能で踏切事故防ぐ!西武鉄道が導入するシステムの仕組み

人工知能で踏切事故防ぐ!西武鉄道が導入するシステムの仕組み

AIによる異常検知システムを導入した西武鉄道の「人道踏切」(埼玉県所沢市)

踏切内における人身事故の発生を減らすため、人工知能(AI)の力を借りて異常を素早く検知するシステムの導入を西武鉄道が進める。踏切の監視カメラからの映像をAIが分析し、異常があれば接近する列車に停止信号を出す仕組みだ。高齢化社会が進む中、AI技術によって人身事故の発生を抑え、鉄道の安全性を一層高めていく。

西武鉄道沿線では現在、340カ所の踏切がある。このうち約7割には踏切内に自動車が立ち往生した際などに検知し、列車に停止信号を出す「特殊信号発行機」を動作させる「踏切支障検知装置」が存在する。ただ、これは自動車の検知が中心となり、踏切内に人が取り残された場合、その場に居合わせた人が踏切の警報機付近の「非常ボタン」を押して特殊信号発行機を動作させる必要がある。

一方、今回の実証では踏切の中でも人や自転車が通行し、自動車は通れない小規模な踏切「人道踏切」を対象にした。人道踏切はもともと通行量が少なく、非常ボタンを押してくれる人が近くにいないこともある。また、高齢化社会の進展で踏切内で転ぶ人や手押し車がレールなどに引っかかる恐れも増えた。

そんな中、「踏切設備に監視カメラが普及し、実態がよく見えるようになり、これを生かして何かできないか」(鉄道本部電気部信号通信課の犬塚隆晴課長)と考え、AIによる検知システムの導入の検討を始めた。

AIによる「人」の検知イメージ(西武鉄道提供)

沖電気工業、丸紅ネットワークソリューションズ(東京都港区)の協力の下、東京都豊島区と埼玉県所沢市の2カ所で21年12月から実証を開始。「過去に事故が発生していたり、カーブがあって踏切に大きな凸凹があったりする場所を選んだ」(犬塚課長)。

監視カメラからの映像をAI技術でリアルタイム処理し、人などの形状を認識する。自動車などの滞留を検知する「物体検知」と、関節同士のつながりを推定して人の骨格を検知し、人の移動や滞留を検出する「骨格検知」という二つのAIアルゴリズムを駆使し、踏切内の人や自転車などの検知を目指す。

検証中は陰を人と誤認識することもあったが、踏切監視カメラに昼でも夜でも鮮明に写る「低照度カメラ」を採用し、改良を重ねた。22年11月からは本運用を開始しており、23年3月までにさらにもう1カ所の人道踏切に導入する。

課題としては「検知のバランス」(犬塚課長)が上げられる。踏切内の異常を過剰に検知してしまうと、列車を頻繁に止める恐れがある。安全と安定輸送の両立を目指し、システムの完成度を高める。(編集委員・小川淳)

日刊工業新聞 2023年02月24日

編集部のおすすめ