距離情報で姿勢・動きを可視化、オムロンのAI技術の生かし方
オムロンは距離を測定できるセンサーと人工知能(AI)技術を使い、人の行動の推定につながる技術を開発し、2022年12月に同技術を利用できるソフトウエアの販売を開始した。センサーで得た距離情報を元に、AI技術で人の骨格点を抽出。姿勢や動きを可視化する。大容量のサーバーがない環境でも使用でき、太陽光の下や夜間でも安定して動作する。システムイングレーターや病院などのエンドユーザーと連携し、介護向けに早期の実用化を目指す。
オムロンが開発したのは、距離データから人の骨格点をAI技術で推定し、座標として出力する姿勢推定技術。人の頭や首、手などの体の各部位の骨格点を認識し、それらをつなぎ合わせることで人がどのような姿勢や動きをしているかを認識できる。
距離を測る「目」の役割を担うセンサーにはオムロンの3D TOFセンサーを使用している。TOFセンサーは光の飛行時間を計測し対象物までの距離を3次元(3D)で計測する。オムロンのTOFセンサーは光学設計を工夫するなどして、太陽光下でも安定した検出を実現。照明のない夜間を含め、さまざまな場面でより正確に対象物との距離が検知できるのが特長だ。
センサーで得た距離情報から人の骨格点を推定する必要がある。オムロンはAI技術を活用した自社開発の精度の高いアルゴリズム(計算手順)で人の骨格点が最適化されるように工夫した。ベースになったのが同社独自の顔画像センシング技術「OKAO Vision」の開発で蓄積したアルゴリズムの技術だ。OKAO Visionは画像データの中から人の顔部分を検出したり、顔画像から性別や年齢、表情などを推定したりする機能を持つ。実現には大量のデータを収集し、アルゴリズムに学習させるノウハウが必要だが、このノウハウを姿勢推定技術の開発にも生かした。
オムロンの姿勢推定技術は3人までの動作に追従。横たわったり座ったりなどの複雑な姿勢でも骨格点を精度よく表示する。小型・高速を強みとするアルゴリズムで、大容量のサーバーがなくてもパソコン上のCPU(中央演算処理装置)でのリアルタイム処理を実現できるようにした。
転倒の発生や転倒につながる危険行動を病院や介護施設の職員に知らせる見守りサービスなど、介護向けアプリケーションへの展開を目指している。姿勢推定技術の特長は可視化するのが人の姿勢や動きにとどまり、顔などではない点。プライバシーに配慮しやすくなり、トイレや風呂場など、ベッドの周囲以外で転倒リスクがある場所での見守りにも利用範囲が広がる可能性が期待できる。(山田邦和)