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原子力機構、薄膜磁石の基礎原理解明 デバイス小型化に重要
日本原子力研究開発機構の仲田光樹研究副主幹と鈴木渓研究員は、磁気デバイスのさらなる小型化に重要となる薄膜化した磁石の基礎原理を明らかにした。磁石の中を伝わる磁気の波がない「量子真空」に潜むとされるエネルギーの存在を理論計算により示し、これが磁石を薄くした時に生まれるエネルギーであることを突き止めた。磁石を薄くするほどこのエネルギーは大きくなる。薄膜磁石の高集積化などにつながると期待される。
通常の波では、波がない場合エネルギーは存在しない。一方、磁気の波は、波がない量子真空でも磁石の種類により「ゼロ点エネルギー」と呼ばれるエネルギーが存在する。
同エネルギーが存在するイットリウム鉄ガーネットと酸化クロム(Ⅲ)の2種類の磁石を用い、磁石の厚みを薄くしていった時のゼロ点エネルギーの差分を数値計算で定量的に評価した。
すると、この差分は微小な距離にある2枚の金属板間に引力が働く「カシミール効果」に相当することが分かった。磁石を薄くするほど磁気の波の種類は少なくなり、カシミール効果は大きくなる。
数ナノメートル(ナノは10億分の1)程度まで薄膜化すると、磁気の波のカシミールエネルギーは数十マイクロエレクトロンボルト(マイクロは100万分の1)に達することが分かった。これは磁石の向きを決める要因となる磁気異方性エネルギーと同程度で、磁気の波のカシミールエネルギーは磁石の性質の新たな制御方法として有効と見込まれる。
日刊工業新聞 2023年03月03日
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原子力といえば原子力発電がイメージされますが、燃料電池や自動車エンジンの開発にも貢献する基幹技術です。イノベーション創出に向け、「原子力×異分野」の知の融合を推進する原子力機構の『価値』を紹介します