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高騰した欧州天然ガス、1年半ぶり安値圏まで下落の背景

高騰した欧州天然ガス、1年半ぶり安値圏まで下落の背景

GIE公式インスタグラムより

高騰していた欧州の天然ガス相場が、約1年半ぶりの安値圏まで下落している。年始の気温上昇などで暖房需要が抑えられ、足元では欧州のガス在庫が直近5年平均比で5割増まで積み上がって相場を下押ししている。ただ、2023年は中国景気の復調に伴う需要増加が想定されるほか、次の冬の寒さが厳しくなれば再び国際需給が逼迫(ひっぱく)しかねず、市中の警戒は続いている。

ニューヨーク市場の欧州天然ガス(オランダTTF)先物相場は、足元で期近の清算値がメガワット時当たり50ユーロ近辺と21年8月以来の安値圏を推移している。ロシア産の供給途絶懸念で暴騰した22年8月の高値比で約8割安く、3カ月前比でも約6割安い。

年始にフランスで気温が20度C以上に上昇するなど欧州が暖冬となったことで暖房需要が抑えられ、需給の緩みが意識された。欧州のガス業界団体GIEによれば、25日時点の欧州のガス在庫は電力量換算で701テラワット時(テラは兆)と、需給逼迫が懸念された前年同時期比約2倍多く、液化天然ガス(LNG)換算では2500万トン程度上回る。貯蔵能力に対する比率も60%台と同30ポイント程度多い。

ただ、気温上昇に支えられた需給の緩和は再びタイト化するリスクを伴う。大和総研の近藤智也シニアエコノミストは「1月後半以降は欧州で寒さが戻ってきており、3月末時点のEU(欧州連合)の貯蔵率は4割程度と17-21年の平均並みまで低下する」とみる。

相場がピークアウトしたことで、需要が再び高まることも想定される。エネルギー・金属鉱物資源機構調査部の白川裕氏は、22年の価格高騰に伴う需要減はLNG換算で2000万-3000万トン程度と試算し、「寒さが厳しくなったり、価格低下に伴い需要が増えたりすると急激に在庫はなくなる」とし、欧州で在庫がピークとなる「23年秋以降は、再び需給が厳しくなる可能性がある」と指摘する。

また23年は、新型コロナウイルス感染対策を緩和した中国の需要拡大もありうる。22年の中国のLNG輸入量は景気減速の影響で前年比2割減の6344万トンと、世界最高だった21年から急減して日本に抜かれたが、23年は再増加が見込まれる。

欧州のロシア依存の脱却が進む中、天然ガスの争奪戦は当面続く見通し。「次の冬の需給は気温や中国の景気次第のところがあって、楽観できる状況ではない」(東京ガスの笹山晋一副社長)と、予断を許さない状況が続いている。

日刊工業新聞 2023年02月28日

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