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【ディープテックを追え】微生物ゲノムの「地図」を作るスタートアップの正体

#120 bitBiome

微生物などの全遺伝情報(ゲノム)を改変し、欲しい機能を持たせる―。こうした「合成生物学」を応用した事業展開を目指す企業が多く生まれている。次世代シーケンサーの読み取りコストの低下やゲノム編集技術の進展が、この潮流を後押しする。

一方で地球上にいる微生物の種類は非常に多く、ほとんどはゲノム解析が進んでいない。解析が進んでいない微生物の中には、産業応用できるものが潜んでいる。bitBiome(ビットバイオーム、東京都新宿区)は独自技術で、微生物のゲノムを解析する。まだ見ぬ微生物の産業応用に向け、「地図作り」に挑む。

単離して解析

マイクロ流体デバイスで微生物を単離する
一つずつカプセルに入った微生物

ビットバイオームの独自技術は微生物を一つずつ離して、ゲノム解析できる「bit-MAP(ビットマップ)」だ。微生物をマイクロ流体デバイスで、一つずつカプセルに封入し単離する。そのカプセル内でデオキシリボ核酸(DNA)を増倍し、次世代シーケンサーでゲノムを読み取る。同社はこの技術を使い、公共データベースにも収録されていない微生物の遺伝子情報を解析する。従来では難しかった培養のできない微生物などの遺伝子情報を詳細に解析し、「地図」となるデータベースを作る。すでに8億の遺伝子情報を解析済みだという。脇山慎平ゼネラルマネージャーは「国内外の企業から技術についての問い合わせは多い」と話す。

バイオものづくりが勃興

同社の技術が注目を集めるのには理由がある。微生物を使った「バイオものづくり」という新しい産業の勃興だ。

バイオものづくりは目的の化学物質を作らせるといった機能を人工的に付与した微生物など「スマートセル」を設計し、培養する。スマートセルが作り出す生成物を分離・精製して、化学製品を作る。

石油化学は高温高圧の条件で製品を生産してきた。だが脱炭素の流れから、生産に必要なエネルギーを減らす必要がある。そこでキーになるのがバイオ技術というわけだ。

バイオものづくりにとってスマートセルの性能は重要だ。物質を生成する効率や培養のしやすさなどを兼ね備えたスマートセルを設計することで、安定的に製品を作り、コストダウンが可能になる。このスマートセルの設計や培養プロセスを開発に特化した「バイオファウンドリ」という企業も生まれている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も支援する。

データベースを提供

同社のラボ

ビットバイオームは独自のデータベースをバイオファウンドリなどへ提供する。公共データベースには載っていないユニークな遺伝子情報を、スマートセルの設計に生かす。合わせて3次元構造解析や機械学習により収集した情報から目的酵素を絞り込む。

また、この酵素技術を自社開発にも生かす。ビットマップで発見した酵素の例では、40度Cでプラスチックを分解し、安定性の高くなるように酵素を改変し、活性も確認した。その他の用途でも、既存の酵素よりも活性の高い酵素を複数発見している。脇山ゼネラルマネージャーは「今後はデータベース事業に加え、開発した酵素を他社にライセンスして事業を拡大したい」と話す。

化学製品の合成に加え、医薬品などにも応用が期待されるバイオものづくり。すでに米国では、遺伝子設計のプラットフォーム事業のギンコバイオワークスが先行する。日本もNEDOが中心になり、バイオものづくり基盤を整備。神戸大学の研究をベースにしたスタートアップ、バッカス・バイオイノベーション(神戸市中央区)が立ち上がっている。次世代の産業基盤をめぐる競争はすでに始まっている。

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