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世界で初の報告、北九州高専が新種の細菌を発見した意義

形成コロニー、液晶の特徴
世界で初の報告、北九州高専が新種の細菌を発見した意義

発見した細菌がコロニーを形成し、液晶になっている。コロニーは通常濁色になるが、半透明で虹色になり液晶を作った(北九州高専・水野教授提供)

自然界には数え切れないほどの細菌が存在しており、知られているのは一部だけだ。北九州工業高等専門学校の水野康平教授(国立高等専門学校機構国際参事)らは、コロニーを形成すると平面状で液晶に似た状態へ組織化する新種の細菌を発見した。さらにコロニー内部に娘細胞を収容し、水に触れると放出する仕組みを持つことが分かった。同様の性質やライフサイクルを併せ持つ細菌の報告は世界で初めて。新たな細菌の概念構築につながる。(飯田真美子)

同細菌が形成するコロニーは薄くて平べったい構造をしており透明で、光が透過する角度によっては虹色に輝いて見える。この状態は液晶に似ており、細胞の自己組織化によって作られることが分かった。一般的な細菌が作るコロニーは立体的にダマになって増え、濁色で光は透過しないものがほとんどで、同事例はこれまで報告のない発見だった。

さらに増殖機構も特異的であり、同コロニーは時間がたつと薄い内部に小さな娘細胞を溜め込む。ある程度増殖すると落ち着くが、水と反応すると一気に中身の娘細胞を放出する。この現象は胞子やカビなどによく見られる機構だが、多細胞性の細菌で見られたのは初めて。細菌が単細胞から多細胞に進化する過程の謎が明らかになるモデル細菌になり得る。水野教授らは液晶に似た状態がカギとなり、鍾乳洞内の環境のように連続的に水流にさらされることが多細胞性の細菌への進化に関わっていると考えた。細菌の進化につながる新たな概念が生まれるかもしれない。

見つけた細菌と同じようなゲノム情報を持つ細菌がいるかを調査する中で、石灰質でできた池の近くから発見された細菌が似た遺伝情報を持つことが分かった。水野教授は「自分たちの見つけた細菌は石灰岩などで形成された土地の洞窟の中の河川近くで採取した。似た環境であることから確信が持てた」とほほ笑んだ。

発見した細菌は、北九州の平尾台にあるカルスト台地の鍾乳洞から採取された。水野教授らはもともと生分解性プラスチック合成細菌の研究をしており、生体内で効率良くプラスチック成分を合成する微生物を見つける一環で鍾乳洞を調査したことがきっかけ。採取した細菌の中に他とは色や形が明らかに違うコロニーを発見。詳細に調べると新種の細菌でこれまで知られていない特殊な性質・機能を持つことが分かった。水野教授は「捨てる前のコロニーの最終チェックで専攻科生が見つけてくれた。細かいところまで意識できるのが高専生の良いところ」と振り返る。

ただ、未解明で前例のないことを証明するには多くの検証が必要で、細菌発見から論文にまとめるまでに約10年かかったという。同成果は生化学系科学誌イー・ライフに掲載された後に、米科学誌サイエンスでも特集されるほどの注目度だ。北九州にある洞窟から見つかった“日本産”の細菌が、生命の進化に関わる新しい概念形成の火付け役になるかもしれない。

日刊工業新聞 2022年10月31日

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