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「挑戦通じて人は成長」、加賀電子会長の経営哲学

時代の変化恐れず生き残る

「新しい製品や技術に興味を持つ“加賀らしさ”を受け継ぐ人間がいるから会社が発展してきた」。加賀電子の塚本勲会長は1968年の創業以来、オイルショック、ビデオゲーム、パソコンなど、次々に生まれる製品や技術革新、経営環境の変化に商機を見いだし、国内トップクラスの電子部品商社へと会社を成長させてきた。

塚本会長は電子部品商社で営業経験を積んだ後、秋葉原で加賀電子を創業した。当時は電機機器メーカーのエンジニアが試作品を作るため自ら秋葉原に足を運び、部品を購入していた。秋葉原に立地する地の利を生かし、「電話一本で必要な部品を揃えて届けます」と言って商売を始めた。当初は資金がなく、顧客から前払いで代金をもらって部品を購入した。商社時代に得た人脈や付き合いのおかげもあり、7―8割の顧客が「最初だけだぞ」などと言って前払いに応じてくれたという。資金がなかったことは、強みのキャッシュフロー経営につながった。お金が動かず寝てしまう在庫は「罪子(ざいこ)」と呼び、厳しく管理する。顧客が頼む数だけを発注し、多めに注文しない。期末在庫が3日分以内に収まる部署は表彰し、手当を出す。創業から続く強みだが、塚本会長は「相当な努力が必要なことだ」とその苦労を強調する。

「創業当時は昼間にみんなで営業し、夜は事務所に集まってビールを飲み、営業会議をした。仲間と一生懸命に働いて利益が出たら山分けする。そんなところから始まった会社だ」という。現在も期末の利益に応じて3月末に賞与を出し、創業当時の精神を忘れない。自らも「創業者だがオーナーではない。会社は自分のものでないとの発想が最初からあった」と説明する。

挑戦を歓迎することも社風の一つで、「新人のうちから市場調査をして新商品の取り扱いを考える。顧客の役に立ち、利益が出るなら何でもやる」。新しい試みには失敗もあるが、その経験を糧に有能な幹部に成長することも多い。塚本会長は「信頼できる人間が役員の中に育っており、会社を任せられる」と挑戦を通じた人の成長に自信を見せる。

デジタル化の進展や国際情勢の不安定化など、時代はさらに変化する。電子部品商社もデジタル変革(DX)、脱炭素、高齢化社会などの社会課題に向き合う必要がある。「勉強を怠らず時代の変化についていけば生き残れる。人間成長なくして会社の発展はない」と、変化を恐れず立ち向かう大切さを説く。(編集委員・錦織承平)

【略歴】つかもと・いさお 1968年に加賀電子を創業。2007年から会長。事業をグローバルに広げ、電子機器受託製造サービス(EMS)なども手がける。中長期に売上高1兆円の目標を掲げる。石川県出身、79歳。
日刊工業新聞 2022年12月20日

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