「つなぐ、つなげる」三菱商事社長の経営哲学
「つなぐ、つなげる」。
欧州連合(EU)が環境政策目標を採択した2008年に、三菱商事の中西勝也社長は確信した。同社は発電事業が中心だったが、「洋上風力発電とセットにした送電事業には将来性がある」。そして自らで構想し、事業計画を策定、会社やパートナーと交渉する。
構想から実行まで一貫して担当したのは初めての経験。「担当者から責任者になるのは一皮むけるきっかけで、自信がつき、それが今につながっている」。東日本大震災の前年の10年のことだ。「当事者意識を持ち、どんなささいな事でもいいので成功体験を通じ、一つの自信から次の自信につなげてもらいたい」と社員に語りかける。
また「腹を決めてやれ」と中西社長の背中を押したのが先輩だった。勇気づけられるとともに、自らが計画しても完成を見届けることができないことが多いインフラ事業で、先輩と時が重なり合い、「つなぐ、つなげる」ことの大切さを体感する。
同社は全産業をカバーしているが、部門ごとの縦だけではなく、横をつなげることで、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)などの事業を通して社会課題の解決を通じて新たな共創価値を生み出す。確かに総合力を発揮できてこその総合商社といえる。
「つなぐ、つなげる」は22―24年度の中期経営戦略のキーワードでもある。産業・企業・コミュニティーをつなぎ、社会全体の生産性向上と持続可能な価値創造を推進するため、産業DX部門を新設した。
洋上風力発電事業に取り組む。デジタル変革(DX)とエネルギー変革(EX)を融合させるのがポイントで、国内では千葉県銚子市沖と秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、同由利本荘市沖の3カ所で、最速28年後半から運用が始まる。この事業を成功させるためにも地域とつながり、「本当に根付く」ことで地域創生につなげる。
中西社長はタフだ。コロナ禍前は年間に120日出張していた時もあった。会食や打ち合わせだけでも欧州に0泊3日の出張に行った。現地での滞在時間は「2時間もなかった」。
「至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり」。この座右の銘を体現した中西社長の誠が総合エネルギー会社であるオランダのエネコを動かし、19年の買収につながる。行動制限が緩和される中、誠を尽くしてリアルにつながり始めた。(編集委員・中沖泰雄)
【略歴】なかにし・かつや 85年(昭60)東大教養卒、同年三菱商事入社。13年新エネルギー・電力事業本部欧州事業部長、16年執行役員中東・中央アジア統括、19年常務執行役員電力ソリューショングループCEO、22年4月社長。大阪府出身、61歳。