EV照準の半導体メーカー、「SiCパワー半導体」で提案するソリューション
半導体メーカー各社が電気自動車(EV)のモーター制御用インバーター向けの炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の提案に力を注いでいる。SiC半導体を搭載した車載用パワーモジュールやSiC半導体を駆動するゲートドライバーICの新製品に加え、顧客である自動車メーカーの開発コストを減らす解決策(ソリューション)を組み合わせる提案が主流となっている。(編集委員・錦織承平)
ルネサスエレクトロニクスは25日、EVインバーター向けのSiC駆動用ゲートドライバーICのサンプル出荷を始めた。2024年1―3月の量産を計画する。急速充電性能を高めたEVバッテリーのバス電圧が800ボルトまで高まることに対応し、耐電圧性能を従来品の700ボルトから1200ボルトに高めた。SiCはシリコン(Si)製パワー半導体よりも耐圧性能が高く、インバーター効率を上げるための高速駆動(スイッチング)が可能で、EVの走行距離を伸ばせるため採用が増えている。
スイスのSTマイクロエレクトロニクスも1200ボルトまでの耐圧性能を持つSiCパワー半導体モジュール「ACEPACK」をEVインバーター向けに提案する。SiCは産業用に販売してきたが、EV向けの需要増に対応し、2年ほど前から車載用に展開。北米や中国でのEV搭載実績を訴求し、日本の車メーカーを開拓する。
同社日本法人オートモーティブ&ディスクリート製品グループの中條顕ディレクターは「顧客の要求仕様は車種ごとに違うため、製品仕様にもバリエーションが求められる」とし、耐圧性能や電力レンジといった仕様を細かく分けた製品をラインアップする。
米アナログ・デバイセズは22年11月にEVインバーター用SiCパワー半導体を駆動するゲートドライバーICを発表。23年内の量産開始を予定する。
米SiCパワー半導体メーカーのウルフスピード、インバーター制御用マイコンを手がける仏シリコンモビリティーと協力して開発した出力300キロワットのインバーターを特定顧客に提供。システム動作の中でゲートドライバーの性能を評価してもらう。アナログ・デバイセズによると「顧客も設計コストを抑えるため、すぐに評価できるものを求める傾向が顕著になった」。
こうした傾向には各社が対応しており、STマイクロのパワーモジュールも共通する回路構成を集約して小型化したパッケージの形で顧客に提供。流したい電流、電圧に応じて搭載する半導体素子を選べる。顧客が他社製品と比較しやすく、設計コストも抑えられるようにして、製品性能やラインアップなどで差別化を図る。
ルネサスも23年前半に新しいSiC駆動用ゲートドライバーICとパワー半導体、マイコンなどを組み合わせたインバーターキットを提供開始する。「回路設計、基板、ソフトウエアも提供し、5年かかる顧客側の開発期間を1―2年に短縮する」(同社)狙いだ。製品性能に加え、顧客の開発を支援するソリューションの充実も重要になっている。
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