次世代半導体素材「窒化ガリウム」は社会をどう変えるか
発光ダイオード(LED)照明から空飛ぶ車まで、「次世代半導体素材」として注目を集める窒化ガリウム(GaN)。名古屋大学では、未来エレクトロニクス集積研究センター(CIRFE)において、2014年に青色LEDの発明でノーベル物理学賞を受賞した天野浩センター長(名大特別教授)を中心に、さまざまな新素材を研究する。実用化が進めばGaNはエネルギーや環境など、さまざま社会課題を解決する可能性を秘める。(名古屋・浜田ひかる)
プロセス提供
GaNの最大の特徴は「結晶が硬い点」(天野センター長)だ。青色LEDはGaNの高品質な結晶化によって実現した。この高精度の結晶化が極めて重要であり、今までは安定的に作り出すことは困難だった。
これを克服するためCIRFEは18年、GaN専用クリーンルームや結晶成長装置、評価分析装置などの最新設備を導入した「エネルギー変換エレクトロニクス実験施設」を開所。今まで蓄積した技術やノウハウを生かし、高精度なGaN結晶を生み出すことが可能な標準プロセスを企業に提供する。
GaNの社会実装は照明以外にも広がろうとしている。CIRFEは19年、GaNの次世代半導体を使用した車載トラクションインバーターを用いた電気自動車(EV)「オールGaNビークル」を公開。従来のパワー半導体と比べ、電力喪失を65%削減した。無駄な電力喪失を防げるため、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への貢献に期待がかかる。
天野センター長が重視するのは、GaN基板上にGaN素子を生成する「GaN on GaN(ガン・オン・ガン)」だ。従来のGaN結晶の基板はシリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)などが主だった。
タフで単純構造
社会実装の実現にはタフで単純構造の方が受け入れられやすい。結晶の硬いGaNを基板にガン・オン・ガンとすることで、高電圧でも壊れにくく、大電流を流すことが可能になる。それは、1素子であっても大電流を必要とするデバイスを駆動させるだけの力を持つことを意味する。
ただ、現状で第5世代通信(5G)基地局やEVなどで実用化されるGaNはSi基板やSiC基板を利用したものしかない。天野センター長は「今後、GaNを社会に浸透させるにはガン・オン・ガンに置き換わっていく必要がある」と強調する。背景には政府が掲げる「50年までの脱炭素社会の実現」がある。目標達成に貢献するためにも、「シーズから社会実装まで最低でも30年かかる。今から取り組まなければ間に合わない」(天野センター長)と開発を急ぐ。
現状、ガン・オン・ガンの実装事例はないが、23年をめどに航空機やリニアモーターカー、5G基地局などでの社会実装を目指している。持続可能な社会実現をかなえる可能性を持つ新素材。GaNが社会に浸透するのはそう遠くない。
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