TSMC・ソニー合弁の半導体新工場に早くも「難所」の理由
半導体工場の新設ラッシュで全国的な人材争奪戦が始まりそうだ。台湾積体電路製造(TSMC)がソニーグループと合弁で熊本県に予定するロジック半導体工場は建設への準備が進むが、目下最大の課題は1500人以上の人員確保。複数の新工場計画と時期が重なる。加えて新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大による世界的な移動制限の厳格化も計画の逆風だ。巨大プロジェクトは早くも難所に差し掛かる。(編集委員・鈴木岳志)
「新工場の人員確保は大丈夫なのか」。11月後半、TSMCからソニーGなど関係各所に心配の連絡が入ったという。2022年にソニーGのイメージセンサー工場近くで着工し、24年末までの生産開始を目指す。準備期間は長いようで短い。
ソニーGの台所事情も厳しい。「ソニーは自社の熊本工場だけでなく、新棟を建てたばかりの長崎工場も人手不足で困っている。他人を助ける余裕はないだろう」(関係者)と人員確保のめどはまだ立っていないようだ。
「本当に人を採用できない」と九州地方に拠点を持つ半導体関連企業幹部は嘆く。人手不足は今後さらに深刻化する恐れがある。
NAND型フラッシュメモリー世界大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)が三重県四日市市と岩手県北上市でそれぞれ新棟建設を進めているほか、米マイクロン・テクノロジーも広島県にDRAMの新工場をつくる見込み。各社の計画は今後2―3年内と時期が重なる。
「工場を建てるだけで終わりではない。(TSMCを誘致した)政府は人手不足対策を考えているのか」(半導体関連企業首脳)と疑問視する向きも出始めた。民間企業の自助努力だけでは解決が難しい。育成を含め、国の積極的な関与を求める声が増えそうだ。
TSMCは米国アリゾナ州の工場建設当初から数百人規模の技術者らを台湾から派遣しているもよう。熊本の工場立ち上げ支援でも同様に進めるとみられるが、日本政府が11月30日から実施した外国人入国停止措置が長引けば計画に支障が出かねない。全てのカギは人材が握っている。