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マザー工場でサイバーフィジカルシステムの実装進めるロート製薬、会長がかける期待

マザー工場でサイバーフィジカルシステムの実装進めるロート製薬、会長がかける期待

箱詰め作業を自動で行うケーサー

ロート製薬のマザー工場である上野テクノセンター(三重県伊賀市)では、倉庫からの資材運搬や包装・箱詰めで協業ロボットが活躍する。22年9月から稼働したC棟は、I・IoT(製造業におけるモノのインターネット)や人工知能(AI)の活用により工程を最適化するサイバーフィジカルシステム(CPS)の実装を進める。人とロボットそれぞれの強みを生かす環境を構築し、将来はグループ全体に取り組みを広げる構想だ。(編集委員・安藤光恵)

C棟は医薬品や医薬部外品を国際的な厳しい品質管理基準で製造する。原料からの調整など複雑な作業は人の手で行うことが不可欠だ。一方、疲労に伴う作業効率や精度の低下リスクを踏まえ、誤差なく一定レベルを保ちやすいロボットが活躍する場面も多くある。

田中祐之上野工場長は「協働ロボットやCPSの導入と実装で、生産性や安全性が飛躍的に向上する」と力を込める。単純作業を自動化することによる効率化と、人が行うと身体的負担の大きい業務の肩代わりによる安全性向上が期待できる。

最新のC棟では「人と環境にやさしいスマート工場」を方針に掲げる。現在、資材などを運ぶ無人搬送車(AGV)3台と、製品の箱詰めを行うケーサーとして大型の協働ロボット2台と小型1台を運用。既存棟でもロボットを活用してきたが、CPSの導入により特性がより生きるという。人とロボットが同じ空間で働き、それぞれの強みを生かすライン構築に取り組む。

CPSは九州大学マス・フォア・インダストリ研究所やファーストループテクノロジー(FLT、東京都板橋区)と連携して導入。現実空間にある多様なデータをセンサーネットワークなどで収集し、仮想空間で大規模データ処理技術などを駆使して分析や知識化を行う。そこで得られた情報を再び現実空間に反映し、課題解決につなげる仕組みだ。

無人搬送車は資材などの運搬を担当

既にC棟でデータ収集を開始。九州大とFLTの知見を生かして2023年3月までに分析結果を実装する予定。25年3月までに上野テクノセンター全体へ、31年3月にはグループ全体への拡張を目指す。

具体的にはIoTとセンサー技術でヒト・モノの動きや工程を可視化し、製造現場全ての作業の動線や所要時間、携わる人数など個人を特定しない活動データを可視化する。収集したデータに基づき、AIの深層学習を用いて仮想空間で作業や動線、ラインやロボットの配置、従業員の負荷などの模擬実験を実施し最適化を図る。データインフラ開発グループの固城浩幸マネージャーは「製造現場の配置を動かさなくても、サイバー空間でいろいろな事例を確認できる」と利点を話す。

CPSで人とロボット・機械の最適な作業分担を推進。過度な緊張を強いられる作業や単純な繰り返し業務から従業員を解放し、より働きやすい環境を目指す。山田邦雄会長は「多様な商品を柔軟に作れ、常にさまざまな工夫を取り入れられる工場になる」と今後の発展に期待をかける。

日刊工業新聞 2022年11月29日

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