核融合の実現を見据える。“地味でも大事な”構造材料の話
長らく夢のエネルギーとされてきた核融合の実現を目指す動きが本格化してきた。国際プロジェクト「国際熱核融合実験炉(イーター)」だけでなく、スタートアップなど企業による研究開発も活発化している。
発電能力を実証する原型炉の研究開発に向けては構造材料が重要になる。従来、核融合研究の中心テーマは核融合反応を起こすプラズマの制御だった。しかし発電能力を持つ核融合炉では、炉を構成する各種部品が核融合反応によってできる多くの中性子にさらされるため、高温や放射化への耐久性が必要になる。一見“地味”に見える核融合材料だが、核融合の実用化には欠かせない。原型炉に向けて材料の課題や今後について、東北大学金属材料研究所の笠田竜太教授に聞いた。
構造材料を使う「ダイバータ」と「ブランケット」
核融合炉特有の材料が使われる代表的な部品は、核融合反応によって生まれる余分なヘリウムを排出する「ダイバータ」と、熱を取り出す「ブランケット」だ。これらは核融合反応を持続させるのに欠かせない。
ダイバータの役割はプラズマの温度を冷やすヘリウムの排出だ。そのためプラズマの高温にさらされる。高温の熱を取り除くため高い熱伝導性が求められる。そこでダイバータ表面にはタングステン、内部には銅合金を使う。どちらの材料も熱伝導性に優れ、規格化されている。ただ笠田教授は「イーターではタングステンと銅合金で問題ないが、実用炉はより多くのエネルギーや水素の同位体などがダイバータに飛んでくる。ダイバータの表面はスパッタリングにより損耗する。将来は熱伝導性に加え、損耗量の抑制も検討する必要がある」と話す。
ブランケットは核融合反応で生じた中性子を遮蔽し、熱を取り出す。また燃料となる三重水素を製造する役割も担う。ブランケットの表面は多くの中性子を浴び、放射化してもろくなってしまう。そこで火力発電用のフェライト鋼を改良した「低放射化フェライト鋼」を使う。中性子を浴びても、放射化しにくい元素を使った材料だ。
三重水素を作る
ブランケットの内部にはもう一つの役割である三重水素の製造機能を担うため、液体金属を充てんする。主に使うのがリチウムとベリリウムだ。リチウムは中性子と反応させて三重水素を作る。三重水素は自然界に微量しか存在しない。核融合発電を定常的に動かすには中性子を使って、三重水素を製造する必要がある。
重水素と三重水素による核融合反応が完璧にループすれば、中性子は一つあれば良い。ただ完璧なループができない場合、三重水素を作るのに必要な中性子が足りず、核融合反応を持続して行えない。こういったリスクを回避するために、中性子を増やすベリリウムを使う。ベリリウムに中性子をぶつけると、一つの中性子が二つに増える。この中性子を三重水素の製造に利用して、運転を安定させる。
リチウムは海水中に多く存在し、そこからほぼ無尽蔵に取り出せる。海水から取り出す場合、鉱山由来よりも価格は高くなる。ただ、鉱山由来のリチウムの価格は二次電池向けの需要増加により上昇傾向だ。将来の価格差は縮まっていく可能性もある。
一方ベリリウムは鉱山由来でしか入手できず、資源が偏在している。中性子を倍増させる材料は、ベリリウム以外に鉛を使う研究も行われているが、「鉛は重いため液体金属にする難易度が高い。また材料を腐食してしまう課題もあるため、当面はベリリウムを使うしかない」(笠田教授)という。
核融合炉の発展には構造材料が欠かせない
笠田教授によれば、2040年代の運転が想定される原型炉では火力発電の技術を応用した構造材料を使う。「構造材料に必要なスペックは冷却温度によって決まる。ブランケットの場合、液体金属を充てんするスペースを確保するため、なるだけ構造材料は薄くしたい。とはいえ、薄くしすぎると高温強度が足りなくなる。このバランスを取ることが難しい。部品を数年に一度交換する前提で、軽水炉と同等の300度C程度で冷却する構造材料なら実現できる」と説明する。その上で「冷却温度が700度Cになれば発電効率などはかなり良くなる。900度Cまで行けば、触媒を使った水素の直接熱分解も目指せる」と展望する。
そのためには材料強度を高める必要があるが、平たんな道のりではない。「材料を実用化する上で最も重要なのは安全性の担保だ。一般的な鉄鋼材料の強度を2倍に高める研究開発に必要な期間は50年以上。研究者の一生を使っても、実現できないかもしれない」と話すほど容易ではない。核融合材料の場合、中性子の照射試験なども必要になる。しかし日本にはそういった照射施設はなく、中性子の量が増える実用炉に向けたデータが取得できるか不透明だ。核融合炉の実現へ、構造材料開発の重要性を忘れてはならない。