エネルギー安全保障で脚光、「ヒートポンプ」の未来図
ロシア・ウクライナ情勢でエネルギー安全保障と脱炭素への取り組みが再認識される中、ヒートポンプへの関心が高まっている。国際エネルギー機関(IEA)は、世界エネルギー見通しの特別リポートとして「ヒートポンプの未来」を取りまとめた。ヒートポンプは特に暖房用の天然ガス使用を削減できることから、ロシアからのガス供給の危機やエネルギー価格の高騰に直面する欧州を中心に見直されている。(編集委員・板崎英士)
ヒートポンプは大気や地中など自然界に存在する環境熱を汲み上げ電力で圧縮、移動させて使う仕組み。使う電力に対し数倍の熱エネルギーが利用でき、日本ではエアコンや給湯器(エコキュート)で普及している。IEAはオイルショック時の1978年にヒートポンプ技術協力プログラムを設置し今日に至るが、特別リポートで初めて取り上げた。 リポートでは化石燃料に代わる暖房に焦点を当て、天然ガス暖房からの切り替えでエネルギー安全保障や脱炭素に効果的で、エネルギー効率の高さから光熱費削減にも寄与するとした。ネットゼロの中位シナリオ(APS)の場合、ヒートポンプが世界の暖房需要に占める割合は21年の約10%から30年に約20%となり、空調と給湯に使う化石燃料は16%削減され、このうち天然ガス需要が最も減るとした。
ヒートポンプ導入で30年までに世界の建物におけるガス需要は21年比で800億立方メートル削減され、そのうち欧州連合(EU)が4分の1を占める。これにより同年までに削減される世界の二酸化炭素(CO2)排出量は5億トンと見る。一方で世界の電力使用量は24%押し上げられると予測する。課題には初期コストの高さや設置する人員の確保とともに、電力需要拡大に伴う送配電網の整備を挙げた。
ヒートポンプ設備はダイキン工業や三菱電機、パナソニックなど日系メーカーが強く、各社は欧州での投資拡大を決めている。日本ではヒートポンプに使う大気中の熱を、09年のエネルギー供給構造高度化法で再生エネと位置付けた。21年の第6次エネルギー基本計画では電化シフトを打ち出し、22年度の補正予算などで省エネ機器への補助も始まる。 ただ欧州ではヒートポンプで使う環境熱を再生エネとして1次エネルギーの国内生産量に計上しているが、日本は再生エネと位置付けるものの総合エネルギー統計で計上していない。「電化推進のためには、ヒートポンプの大気熱利用量をエネルギー自給率にカウントした方が良いのでは」と電気事業連合会の岡村修理事は指摘する。