材料コスト1000分の1、筑波大などが貴金属不要な固体高分子型水電解用電極を開発
筑波大学の伊藤良一准教授らは、水素製造に向け、貴金属を全く使わない安価な固体高分子型(PEM)水電解用電極を開発した。電極によく使われるイリジウム(Ir)の1000分の1程度の材料コストにできる。表面が金属酸化物に覆われて腐食が進まなくなる不動態化を起こしやすい卑金属と触媒能力が高い卑金属を合金化した。強酸性条件下でも腐食せず、模擬実験では3年間99%以上の性能を保持できた。太陽光発電などと水電解を組み合わせた水素製造用電極への利用が期待される。
チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンからなる9元合金電極が腐食せず、高い電極能力を持つことを示した。
硫酸水溶液中で定電流測定した結果、この9元合金の酸素発生電極は200時間劣化しなかった。 この合金の性質を分析すると、鉄、コバルト、ニッケルが酸素発生のための触媒活性サイトとして働き、チタン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンが不動態の役割を担うことが分かった。
候補元素を一つずつ評価する従来手法に代え、多様な元素を入れた多元合金を合成して目的の電気化学反応条件下で不要な元素を取り除いていくことで効率的に最適な組み合わせを探索した。
現状のPEM水電解では、強酸性環境に耐えられるよう貴金属電極の使用が不可欠で、特に陽極は酸化Irしかない。
だが、Irは1グラム2万円程度と高価で、世界年間産出量も約7トンしかないため調達合戦の激化が予想されている。
富山県立大学、大阪大学、高知工科大学との共同研究。
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日刊工業新聞 2022年11月8日