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記憶思い出させるシグナル経路、九州大が見つけた意義

九州大学大学院の新井美存学術研究員と石原健教授らは、記憶を思い出させるシグナル経路を発見し、一つの神経細胞が記憶を忘れさせる「忘却」と思い出させる「想起」の両方を制御していることを示した。線虫を使った実験で、ある遺伝子が壊れると、記憶は保持されているのに思い出せない状態になることが分かった。認知症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの疾患の理解や治療法開発につながる可能性がある。

研究グループはこれまでに、線虫を使って忘れさせることを促進する遺伝子を発見。この遺伝子が失われた線虫は記憶が長く保持され、記憶に基づく行動変化が長く続く。

今回、この忘却促進遺伝子を持たなくても、記憶獲得前の行動に回復する線虫を探索し、別の遺伝子「dgk―1」が関与することを発見した。

dgk―1を欠損させると、神経細胞での記憶は保持されているにもかかわらず、記憶を忘却したかのような行動を取る。このことから、この遺伝子が記憶を思い出すために必要と分かった。

不要になった記憶が蓄積すると、他の必要な記憶を思い出す邪魔になるため、使わない記憶は能動的に忘却される。だが、こうした忘却により記憶の保持時間を制御する仕組みは不明だった。

日刊工業新聞2022年10月4日

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