夜ならではの魅力訴求「ナイトタイムエコノミー」に商機あり
落ち込んだ観光需要の回復に向け、夜間帯の経済活動である「ナイトタイムエコノミー」へ期待が高まっている。コロナ禍で標的にされることも多かった“夜の街”だが、訪日外国人(インバウンド)観光の再開を見据え、大阪では地元の人をも惹きつける新たな魅力が生まれている。地道な感染対策をベースに、夜を切り口とした観光資源の磨き上げに力を入れる事業者を追った。(大阪・大川藍)
【チームラボ】日没変身、長居公園に新感覚アート空間
卵形の球体に触れると、生き物が呼応するかのように周囲の球体が光り出す―。7月、長居公園(大阪市東住吉区)内に新感覚のアートスポット「ボタニカルガーデン大阪」が誕生した。24万平方メートルの広大な植物園内に無数の芸術作品が配置され、日没とともに常設のデジタルアート展へと様変わりする。人の動きに呼応して光や音が変化する幻想的な空間だ。
仕掛けたのはデジタルアートを手がけるチームラボ(東京都千代田区)。「夜になると植物園が作品空間になり、人々と自然がともに作品の一部となる」(猪子寿之社長)ことがコンセプトだ。園内では触って楽しめる作品のほか、野鳥の動きで変化するプロジェクションマッピングなども楽しめる。木々の間に映し出した火の玉の作品は、スマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)で“持ち帰る”ことも可能だ。
アートは屋外に点在し、来場者同士の間隔を保つことができるため、コロナ禍でも気兼ねなく作品鑑賞を楽しめる。長居公園を運営するわくわくパーククリエイト(大阪市北区)の神原清孝社長は「未来型の都市公園として大阪の発展に貢献できれば」と期待。公園内には同展示のほかにもレストランやスポーツ施設などが併設され、日中から夜間までさまざまな遊びを楽しめる。デジタルアートを呼び水に、にぎわいを創出する好事例と言えそうだ。
【スイスホテル南海大阪】LGBTQツーリズム推進
夜間消費が活発なことで知られるLGBTQ(性的少数者)に注目した取り組みもある。大阪・難波を象徴する宿泊施設のスイスホテル南海大阪(大阪市中央区)はこのほど、LGBTQツーリズムに関するセミナーを開催し、従業員の理解を深める取り組みを行った。
2019年まではインバウンド客の利用でホテルも満室状態が続いたが、コロナ禍で需要が消失。「今後入国制限がなくなっても元通りになるかはわからない」(スイスホテル南海大阪)として危機感を高め、国内客を含む観光需要の掘り起こしに力を入れる。研修や日々の呼びかけを通じて従業員の接客スキルを高め、LGBTQなどのニッチ市場を取り込みたい考えだ。
海外出身のスタッフが多い同ホテルではこれまでも多様性の尊重を重視し、近隣のクラブやバーなどをまとめた資料をLGBTQの宿泊客へ個別に手渡すなどの対応をとってきた。今後はホームページを通じた施設紹介で「大阪がLGBTQフレンドリーであることを伝え」(同)、地域全体の魅力を高めたい考えだ。
25年の大阪・関西万博へ向け、大阪を「24時間観光都市」へ押し上げようと、大阪観光局も取り組みに力を入れる。4―6月にはクラブなどの夜間施設を割安に楽しめる「大阪ナイトアウトパス」の実証試験を実施し、一定数の利用を得た。
大阪の玄関口である関西国際空港は24時間空港として格安航空会社(LCC)などの深夜到着便があり、夜間施設利用のニーズも多い。同局は大阪府が感染対策を講じた事業者を認証する「ゴールドステッカー」の取得施設を対象に、クーポンや施設紹介などを通じた呼び込み支援に力を入れる。
ただ、実証実験は国内客のニーズに合わず、チケットの売れ行きは「想定よりも少なかった」(大阪観光局担当者)。初回の反省を踏まえ、秋に実施予定の第2弾実験ではナイトクルーズなど、家族連れでも楽しめる遊びを充実させる方針だ。インバウンド再開への備えと同時に、国内需要を喚起する新たな仕掛けに事業者は知恵を絞る。