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国産初の抗体医薬品を創製、中外製薬の独自技術が放つ存在感

AI・ロボットで変わる創薬現場 #03

中外製薬は国産初の抗体医薬品である関節リウマチ薬「アクテムラ」の創製など、独自の抗体エンジニアリング技術で存在感を放つ。同薬は重症の新型コロナウイルス感染症患者向け治療薬としても使われ、需要が急増。スイスのロシュ・グループの一員として世界中に供給している。

デジタル変革(DX)の浸透は業界でも群を抜く。奥田修社長最高経営責任者(CEO)は「人工知能(AI)などを使って抗体の分子デザインやデジタルバイオマーカーといったDXを進め、これらの実績が評価されて『DX銘柄2022』グランプリに選ばれた」と自信をみせる。

中外製薬は2030年までの10年間で「研究開発アウトプットの倍増」を掲げており、DXの強化でその目標達成を目指す。21年にはAIを用いた自社開発の抗体創薬支援技術「マレキサ」が、深層学習のアルゴリズムに基づき、既存の抗体に比べて結合強度が1800倍高い抗体のアミノ酸配列を提案した。

AI創薬に本格的に取り組んだ17年ごろ「スタートアップを中心に低分子医薬品でAI活用の動きはあったが、抗体医薬品はどこも手がけていなかった」(角田浩行・創薬基盤研究部長)。抗体に関する同社の長年の研究と蓄積されたデータが実を結んだ。

現在は社内のデータサイエンティストも一定の規模になり、最近、AI画像解析に関する成果を人工知能学会で発表した。動物を用いる安全性試験で薬剤投与後、性周期に異常が出ないかどうかをAIが迅速に判定する。次世代に向け挑む中分子医薬品の開発にもAIを駆使する。

中核研究拠点となる10月完成予定の「中外ライフサイエンスパーク横浜」(横浜市戸塚区)には、ロボットで実験を自動化するラボオートメーションを本格導入する。角田研究部長は「今後はAIやロボットとの分業が進む。研究員は人でなければ生み出せない、よりクリエーティブな仕事をする必要がある」と気を引き締める。

日刊工業新聞2022年8月29日

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AI・ロボットで変わる創薬現場
AI・ロボットで変わる創薬現場
新薬をつくる創薬の研究現場で人工知能(AI)やロボットの導入が進んでいます。医薬品の開発には十数年の期間を要し、その難易度やコストは上昇の一途をたどります。こうした中、国内の製薬大手はデジタル技術をどう活用し、創薬の成功率を高めていくのか。動向を追いました。

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