コミックスにも波及、王子製紙の「共通文庫用紙」採用広がる
王子製紙が開発した「共通文庫用紙」の採用が拡大している。2022年初に角川春樹事務所、河出書房新社、筑摩書房、中央公論新社で一斉に始動したのに続き、PHP研究所、早川書房、東京創元社、光文社などに順次広がっている。地方の出版関連から引き合いがあるほか、出版社間でコミックスの用紙を共用化する動きも出てきた。デジタル化に伴うペーパーレスで紙需要が減る中、製紙会社と出版社双方で安定供給・調達に向けた連携が加速しそうだ。
王子共通文庫用紙は中央公論新社が19年ごろ王子製紙に持ちかけ、関係各社との協議や試作、品質試験を重ねて、22年2月以降の新刊向けに供給をスタート。用紙の色はクリームに近い白、厚みは各社の中間帯とした。
文庫本は“出版社の顔”。刊行点数が多く、歴史がある出版社では独自仕様の用紙を発注しているが、安定調達のため連携する企業が増えている。共通用紙の需要拡大は製紙会社には機械稼働率の向上、在庫リスクの削減などメリットが多い。
王子製紙は12年に1000超あった国内印刷用紙アイテムが、共通文庫用紙の投入などもあって7月時点でほぼ半減した。さらなる削減に向けて、文庫以外の出版分野で似通った用紙への置き換え、他社との用紙の共用化などを提案する方針。
文庫本市場は14年から年率5%超のマイナスが続いたが、20年は3・8%減。コロナ禍の巣ごもり需要の影響だが、それでも販売額は約867億円で06年の6割程度。老舗出版社では色味や手触りなどが異なる独自用紙で個性を出してきたが、共通化のメリットを探る動きもみられる。
日刊工業新聞2022年8月15日