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自動化推進で設備内製化した中小製造企業の転機

自動化推進で設備内製化した中小製造企業の転機

田中製作所が開発した反り検査自動機

田中製作所(鳥取市、田中道男社長)は、次世代自動車用配電部材の「バスバー」や、レジスター用小型刃といった小型精密金属プレス加工を得意とする。全ての設備を外注していた同社だが、今では自動化機器の設計から、組み立て、プログラミング、設置まですべて自社でまかなえる体制を整えている。自動化(ロボット化)のきっかけは、2台の水平多関節(スカラ)ロボットだった。 (広島・青木俊次)

「思った成果がでなくてもどうにも対処できず、ほとんど諦めていた」。田中社長は生産設備の全てを外注していた時代をこう振り返る。

刃ならし自動機

転機は2015年。知り合いの経営者から「良かったら使ってみないか」と、2基のスカラロボットを譲り受けた。「自動化は今までやったことはないが、これはよい機会」(田中社長)と開発に取り組んだのが、自動化の始まりだった。

自動化を担当したのが現在、生産技術課に所属する小畑徳夫課長で、一部は外注しながら開発に挑んだ。まずは、プレス後の刃のバリを1個ずつ、バリ取り機で除去する「刃ならし」作業の自動化を進めた。

試行錯誤の末、16年末に、譲り受けたスカラロボットは左右の手となり、約300万円という安価で自動化機器は完成した。熟練者の作業では1時間当たり約900枚のところ、同1200枚を達成。半自動ながら自社開発した自動化機器の第1号となった。

17年8月にはアルミ板に空けた七つの穴にナットを自動で挿入する装置の開発に着手した。国のものづくり補助金を活用。約800万円を投じ、ファナックのパラレルリンクロボット「ゲンコツ・ロボット」、カメラ、架台、パソコンなどを個別に買い集め、約4カ月で完成した。1人で毎時最大35枚だった作業が、1台で同400枚を実現し、プレスしてかしめる手作業をなくすことができた。

19年7月に始めたのが、刃をプレスした後に発生する反りを判別する装置だ。従来は熟練者が、加工後の刃を1枚ずつ上から基準穴に通して反りを見る。案件によっては、短期間に最大30万枚を処理する必要があり、習熟度に応じて処理数の差や検査不良が発生し課題となっていた。

そこで、アクチュエーターロボットや吸着チャックで、1枚ずつ刃を掴(つか)んで検査台に載せ、複数レーザー光を刃の所定の場所に当て反りを測る「刃ならし装置」を開発することにした。完成には約1年かかったが、今では省人化と検査工程での不良ゼロを達成している。

これらにより「我々もやれるという意識が広がり、社内の自動化が加速した」と小畑徳夫課長。本来の目的である生産効率化とともに、現場の士気高揚という副産物も得た。

現在は、従来より高性能な刃ならし装置や、バスバーの自動化機器の開発を進めているところだ。「今後は生産技術者を増やす。その上で余力があれば6、7年後に自動化機器の外販も検討したい」(田中社長)と意気込む。


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日刊工業新聞2022年6月7日

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