最低賃金の上げ幅最大31円、人件費増へ企業に改革迫る
2022年度の最低賃金について議論してきた中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の目安小委員会は、過去最大の全国平均31円、率にして3・3%の引き上げを目安として示した。引き上げ額は21年度の28円を上回り、最低賃金が時給で示されるようになった02年度以降で最大だった。目安通りに引き上げられると、全国平均で時給961円となる。コスト増を踏まえた業務改善策など企業側の対応も急務となりそうだ。(幕井梅芳)
地域別の引き上げ額の目安は、東京、大阪などのAランクと京都、兵庫などのBランクが31円、北海道、宮城などのCランクと青森、沖縄などのDランクが30円となっている。
今回の審議では、引き上げることについては当初から労使双方の姿勢が一致していた。ただ、引き上げ額をめぐって意見の隔たりが大きく、取りまとめの議論が1週間にわたって延期される異例の展開となった。
こうした中で最大の引き上げとなったのは、急激な物価上昇が背景にある。今後も上昇が見込まれることから、労使双方が決断するに至った。ただ、経営側の三村明夫日本商工会議所会頭は「企業の支払い能力が厳しい現状について、十分反映されたとは言いがたい」と指摘。体力の弱い中小企業の経営に大きな影響を及ぼすとの懸念を示した。
中小企業にとって、人件費が膨らむなどマイナス面だけではない。メリットとして前向きにとらえることで、業務改善や成長への足がかりにできる可能性がある。
費用について、人件費が膨らむことが避けられないということであれば、それ以外の不要なコストや節約できる税金を探すなど、費用の見直しのきっかけとなり得る。例えば退職金。従来は「退職一時金」といった形で支払われてきた。一方で、従業員が加入している公的年金に上乗せする形で企業が掛け金を支払い、将来、従業員が年金の形で受け取れる「企業年金」という退職金の支払われ方も増えている。
両者の違いは、支払う退職金を損金算入できるか否かという点にある。前者は損金扱いできないのに対して、後者は損金扱いでき控除対象となる。こうした対策も有効だ。
生産性についても、見直すきっかけともなる。設備投資やデジタル変革(DX)化による業務効率化などを実現できれば経営全体の健全化にもつながる。
海外では、最低賃金の引き上げが成功した事例がある。15年に全国一律の最低賃金制度を導入したドイツだ。東西分裂という歴史を背景に地域の経済力格差で失業者が増加し、悪影響が広がるとの見方があった。しかし、実際には国全体で1・4%雇用が増え、労働者全体の雇用条件の底上げにつながった。
もちろん最賃引き上げによる課題もある。官民一体となって価格転嫁対策に一段と力を注ぐ必要がある。政府として生産性向上に取り組む中小支援策を充実させることも求められる。