「米国なら業界特化SaaSは評価される」。Sozo中村氏×MCデータプラスが語る、バーティカルSaaSの今

#前編

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(左から)中村氏、飯田社長

特定業界に特化したクラウドサービスである「バーティカルSaaS」の存在感が増しつつある。コロナ禍でのITシフトもあり、工場や建設現場など、これまでSaaSの普及が遅れていた業種においても徐々に浸透してきている。

バーティカルSaaS:「建設」や「不動産」など業界特有の課題を解決するクラウド型のソフトウェア。基本的に対象となる業界でのみ使われる。一方で「経理」や「人事」など業界を問わないシステムは「ホリゾンタルSaaS」と呼ばれる。

ベンチャーキャピタル(VC)も、バーティカルSaaS企業へ積極的な投資を行っており、今後サービスが台頭を見せることが予想される。

急成長が見込まれるバーティカルSaaSの可能性や日米比較、課題はどこか―。Sozo Venturesの中村幸一郎氏と、建設業界向けの管理書類作成・管理SaaSのMCデータプラス(東京都渋谷区)の飯田正生社長に語ってもらった。前編は国内のバーティカルSaaSとMCデータプラスの現状について。(取材、執筆:企業データが使えるノート早船明夫、西谷崇毅)

中村幸一郎:Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター。早稲⽥⼤学法学部在学中にヤフージャパンの創業・⽴ち上げに孫泰蔵⽒とともに関わる。三菱商事では、通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーションファンドの事業などを担当。早⼤法学⼠、シカゴ⼤学MBAをそれぞれ修了。⽶国のベンチャーキャピタリスト育成機関であるカウフマンフェローズを2012年に修了。同年にSozo Venturesを創業。ベンチャーキャピタリストのグローバルランキングであるMidas List100の21年版に日本人として72位で初めてランクイン、22年度版のランクでは63位。シカゴ大学起業家教育センターのアドバイザーを22年より務める。
飯田正生:一橋大学商学部卒業後、1996年三菱商事入社。経理、営業経験を積んだ後、三菱商事の子会社2社でそれぞれ執行役員、取締役を務め、経営企画、新規事業開発まで幅広く携わる。18年9月よりMCデータプラス社長に就任。

バーティカルSaaS、ユニットエコノミクスが鍵

―国内バーティカルSaaSの市場性をどのように捉えていますか。

飯田氏:日本の産業は極めてロングテールな構造になっています。

1つの業種でトッププレイヤーが複数存在している上、多くの中堅中小企業が限られたパイを奪い合っています。それによりイノベーションのための新規投資が個社の財務余力に依存したり、分散するため国際競争力を持ちづらい構造です。

例えば建設業界では最大手が占める売上の割合は数%、準大手までを含めた上位20社強を足しても市場の20%程度です。このような状況で個社での研究開発には限界があります。

バーティカルSaaSの役割は業務標準化を通じて、投資余力のない企業の効率化や付加価値化に貢献していくことです。大手の場合はシステムインテグレーター(SIer)などに委託して開発していくことも可能です。ですが、本来は我々のようなバーティカルSaaSが彼らのノンコア業務を代替し、本業の研究開発に投資すべきだと考えています。我々のサービスは建設業の契約企業数は8.5万社以上、登録作業員数170万人以上の利用数を誇っており、国内でも最大規模の「バーティカルSaaS」です。

業界ごとに特有の慣習やプロセスがあるため、サービスを広げるのには時間がかかります。ホリゾンタル領域やBtoC領域のプレーヤーと比べると成長率は低くなりやすいですが、一度入り込めば確実に効率化できる余地があるためリプレイスされにくいです。

―中村さんは、投資家目線でバーティカルSaaSをどのように評価していますか。

中村氏

中村氏:日本の市場では、バーティカルSaaSのような中小企業向けのサービスをこれまで高く評価しない傾向がありましたが、アメリカは逆です。大企業向けのサービスは価格競争で採算性が低くなりやすいですが、中小企業向けに寡占化していくとユニットエコノミクスが圧倒的に高くなります。

ユニットエコノミクス:1顧客当たりの経済性、または採算性を示すKPI(重要業績評価指標)。サービスが生涯に渡って生みだすことのできる総額を顧客獲得コストで割って求める指標。

有名な話ですが、国際物流領域で大企業のコモディティ取引を手がける会社では一案件あたりの利益率が2%を切る一方で、同業種の米フレックスポートは30%近くあります。競合がいないため泥沼の競争に陥らないのです。

バーティカルSaaSは業界における専門性やネットワークが必要になるため、時間がかかり、誰でも取り組めるわけではありません。その分ユニットエコノミクスが高く、市場からは高く評価されています。

事業評価の視点では、ユニットエコノミクスを一番見ています。1ユニットあたりの採算性は、そのサービスの市場での優位性を示します。例えば米Zoomも、ほかのSaaS系通信サービスに比べて顧客獲得効率が高くなっています。すなわち十分な利益率をとっても広まるだけの価値や参入障壁があるということです。大企業的な視点では一件あたりの単価が重要視されると思いますが、採算性をきちんと見ることが本当の意味で事業の競争優位性を示すと考えます。

飯田氏:ホリゾンタルなサービスの例ですが、中小企業向けに標準会計ソフトを提供しているオービックよりも、大手SIerの方が日本では評価されていると感じています。オービックは営業利益率60%程度とユニットエコノミクスが高いのですが、単価の高いSIerの方が評価されるのが日本らしいと思います。

―MCデータプラスも顧客シェア50%以上と寡占化に近づいています。

飯田氏:まさしくMCデータプラスがやっているのが、断片化した市場を順に押さえることです。

元請会社が協力会社に任せる電気工事などには資格が必要です。そこで各社はドキュメントで工事について記録し、安全を保つように法律で定められています。

しかし現場は更地なので紙が置けません。こうした経緯で20年前から労務安全書類をペーパーレスで作成、管理するクラウドサービスを手がけ成長してきました。三菱商事の新規事業に端を発したMCデータプラスは、商社の信用やネットワークを活用することで、スタートアップ企業では取引の難易度が高い大手企業などに対し早期からサービスを提供することができました。

我々はこのような断片的なマーケットにおいて、元請会社のニーズを押さえることで、彼らとネットワークのある協力会社にまで、神経を通すように顧客基盤を広げています。標準化するまでは苦労しましたが、業界全体で一度ハードルを超えたことでシェアを拡大しているのです。

国内最大の建設業向けSaaSを提供するMCデータプラス次なる展開

―MCデータプラスの今後についてどのように考えていますか。

飯田社長

飯田氏:建設現場では工事に関わる業者や作業員をまとめた情報を集約します。これはまさに企業間の契約関係やお金の流れです。我々は工事期間、規模などに関する情報、それに紐づいている取引関係が分かっています。

このようなデータを活用し、新しい現場に入る作業員に現場近くの駐車場やコンビニを紹介するといったビジネス拡張が可能です。またファイナンスにも利用できます。

建設現場は重層下請構造になっており、委託の連鎖が続きます。委託先が起こした問題は上位企業の責任になります。この業界は特に引渡し不履行や品質クレームを嫌うため、上位企業は委託先を選ぶ目が非常に厳しいです。

こういった業界ネットワークによる信頼・信用をもとに下位企業への委託の連鎖が続いていき、現場の編成になるのです。我々はこうした編成情報を分析することで、協力会社の実績に基づいた与信スコアリングを開発できると考えています。

―機能拡張は自社で取り組む以外にM&Aといった選択肢もあり得るでしょうか。

中村氏:国内の作業員のうち50%もシェアを取れているのであれば、周辺領域にもっと投資し、有望なサービスを取り込んでいくべきです。米国の企業は投資も含めて機能拡張を図ります。

飯田氏:国内の建設業界でもクラウドファーストの動きが生まれていて、業界に特化したSaaSを使おうという流れが出てきています。ITエンジニアの不足や情報システムの機能低下を背景に「良いものがあれば自分で仕立てずに、既製服を着てしまおう」という動きになっています。

一方で現状は、小さいサービスが乱立してIDやデータがバラバラになっているという問題があります。こうした目の前のお客さんの課題を解決することから周辺領域に展開していこうと構想しています。

6月28日公開【Sozo中村氏「日本は立ち上げ期」。米国との比較で見るバーティカルSaaSの行く末】 6月29日公開【「スタートアップ投資の再現度は高められる」。Sozo中村氏の提言】

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