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分子機械の人工合成に道、IBM研などが「3種の分子構造を自在に相互転換」実証 

分子機械の人工合成に道、IBM研などが「3種の分子構造を自在に相互転換」実証 

3種類の分子の原子間力顕微鏡イメージ。中央を出発点に左右の構造が任意に作り出せる(IBMチューリヒ研提供)

IBMチューリヒ研究所などは、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針から分子に電圧パルスをかけ、3種類の分子構造を思い通りに相互転換できることを実証した。反応に試薬類は使っていない。単一分子に対し選択的かつ可逆的に反応を制御でき、高度な分子機械の人工合成に向けて道を開く知見だとしている。成果は米科学誌サイエンスにカバー論文として掲載された。

研究ではまず、実験に使う前駆体分子を用意。ベンゼンの六員環が四つ直線状につながり、中央付近の水素原子四つを塩素原子で置換したテトラクロロテトラセンを作る。次いで超高真空・極低温の環境下、この前駆体にSTM探針で電気インパルスをかけ、塩素原子を分離。同時に中央部の炭素(C)のC―C結合も切れ、十員環と、反応しやすいジラジカル(2価遊離基)を持つ構造ができる。

この分子を出発点に短針で高い電圧をかけたところ、中央部に二つの六員環と二つの三重結合を持つアルキン(C―C三重結合を持つ鎖式炭化水素)を生成。低い電圧では中央部に八員環と四員環(シクロブタジエン)の構造が現れる。さらにこれら二つの分子に短針から電子を注入すると、出発点の分子構造に戻すことができた。

これら3種類の分子は構成原子が同じで結合配置が異なる構造異性体。今回の手法が、微小環境でさまざまな任務を実行する分子機械の合成に発展する可能性があるという。研究にはスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学、サウジアラビアのキング・アブドラ科学技術大学、独レーゲンスブルク大学も参加した。

日刊工業新聞2022年7月22日

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