CS推進の旗振り役を務めた西部ガスHD会長のモットー
「お客さま価値、顧客ロイヤルティーの高い会社になる。同時に従業員満足(ES)なくして顧客満足(CS)もない」
西部ガスホールディングス(HD)の酒見俊夫会長が一貫して掲げる「モットーであり指針」だ。1990年代から進むガス自由化に直面する中、同社は顧客との向き合い方を見直してきた。同時に酒見会長自身がCSを標榜するようになったきっかけに、CS推進の旗振り役「お客さまサービス部長」への2003年の就任があった。
「従来通りでは勝ち残れない、変わらねばという問題意識を会社は強く持っていた。社内浸透のため制度面からも精神を理解してもらうよう努めた」
ユーザーの声を積極的に聞き取ったほか、ガス設備を無料点検する活動「ハートフル訪問」に乗り出した。
「もうけ抜きでやる姿勢の定着が必要だった。顧客価値がどこにあるかと言えば、ガス会社だから玄関を開けてくれるのであり、いきなりカタログを出せば信頼が損なわれる。同時に活動を通じて需要を見つけていち早くサービスを提供する。現場からアイデアが出て、全社で顧客価値を考えるようになった」
CSの基盤を固めた一方、ESの深い実践は関係会社の食品メーカー・マルタイの社長時代になる。構造改革の使命を帯び、西部ガス出身の初の社長として09年に就いた。当時56歳。本体に戻る考えは振り切った。
「会社をどう導くかという注目をひしひしと感じた。発展にはESが不可欠と感じ、経営の根幹に置いた。“社員”になりきり、課題をクリアするたびに経営幹部と社員との距離が近づいた。言動、行動を通じて『この人は自分のことを考えている』と思ってもらえた。刺激的で良い体験だった。今のマルタイに対する自負もある」
11年、帰任の辞令が出る。「いまさら何をすれば」と戸惑ったが、13年には西部ガス社長として社外での経験を大いに生かす機会が待っていた。
入社以来、営業として経済成長に伴う需要増、経営企画では天然ガス導入という業界の変遷も肌で感じてきた。そして脱炭素という課題が現れた。30年には設立100周年を迎える。
「今後もガス体エネルギーはなくならない。脱炭素に資するサービスを提供し、顧客が価値を感じられるエネルギーにする。地域にいる当社をいかに選んでもらえるか追求する。30年までのあと8年が大事だ」(西部・三苫能徳)
【略歴】さけみ・としお 75年(昭50)同志社大経済卒、同年西部ガス(現西部ガスHD)入社。07年営業企画部長、08年執行役員。09年マルタイ社長。11年西部ガス取締役常務執行役員、13年社長、19年会長。福岡県出身、69歳。