迫る異動・引っ越しシーズン、新型コロナで自治体の窓口対応はどう変わる?
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないなか、春の異動・引っ越しシーズンを迎える。転勤や就職、大学進学で首都圏、さらに地域内で一極集中が進む九州の福岡市、北海道の札幌市などに転入する人は多い。自治体の市民課や区民課といった窓口が非常に混雑することが予想される。人の移動が新型コロナウイルスの感染拡大を助長する恐れもあるが、まずは不特定多数の人が集中して訪れる庁舎や窓口でしっかりとした感染防止対策が求められる。
人の分散に知恵
転入届は新居に引っ越してから原則14日以内に役所に提出する。転入者が転出者を上回る「転入超過」の状態にあり、企業の拠点や大学などが集中立地する首都圏の自治体の担当部署は、これから繁忙期に突入する。それぞれが新型コロナウイルスの感染防止対策を講じる必要がある。
東京都の世田谷区は各種届け出に対応する受付窓口を10カ所設けており、来庁者が1カ所に集中しないように分散させている。総合支所5拠点は、待ち状況の表示や外出先からメールでの呼び出しを行う番号発券機システムを2017年に導入。同システムを活用して混雑を緩和する。証明書の発行など一部の手続きは、郵送やマイナンバーによるコンビニエンスストアでの交付サービスを利用できることをホームページ(HP)上で案内する予定だ。
目黒区では戸籍住民課窓口で待合用イスの配置を向き合わないよう変えるほか、窓口のテーブルを消毒するなどの対応を行う。大田区、品川区は区民向けに消毒用のアルコール液を準備し、職員のマスク着用を奨励する。豊島区でも業務開始前に来庁者用のいすや手続き業務を行う机の消毒を行っている。今後も来庁者が増えるため、待合場所の工夫を検討している。
多言語で注意喚起も
都心に通勤・通学しやすい都周辺の自治体でもさまざまな取り組みが進む。千葉県で新型コロナウイルスの感染が確認された患者のうち、複数人が利用していたスポーツクラブがある市川市の市役所では、感染リスクを抑えるため職員にマスクの着用などを励行。通勤では職場単位での時差出勤を取り入れた。今後は市民との接触機会が増える市民部市民課の窓口にアクリル製のパーテーションを設置する方針だ。現在準備中で、早期の設置を目指している。
千葉市の中央区役所も市川市と同様にマスク着用を励行。同区役所は職員が罹患(りかん)した場合は同市内の他の区役所と連携し、来庁者を振り分けることを想定している。
さいたま市の中央区役所は原則として職員には個人でマスクを用意してもらう。だが、現在もマスクの品薄状況は変わらない。そのため、手に入らない職員には備蓄用のマスクを支給する。見沼区役所も職員にはマスク着用と手洗い徹底を促している。トイレ内の貼り紙や区役所内のテレビを通じ、手洗い方法を周知する。浦和区役所では来庁者のために消毒液を入り口3カ所と記載台付近に計四つ設置した。今後の感染対策について同区は「情報収集をしながら、状況に応じた対応をしていきたい」としている。
多くの区役所が来庁者用向けに消毒液を設置しているが、一部では使い切ったため入荷待ちという区もある。
川崎市中原区は来庁者に対し、手洗いの徹底を促すポスターを貼るなどの対策を取る。引っ越しシーズンで外国人も増えているため、英語や中国語といった多言語表記のポスターを貼り工夫している。区役所の出入り口や窓口にアルコール消毒液を設置。HPでも新型肺炎の感染対策を目立つよう表示して注意喚起する。松山和俊危機管理担当課長は「今後の展開によっては対策を強化しなくてはならない。今は国の方針など様子を見ながら、その都度対応している状況」という。
一定期間に不特定多数の人が建物内に集中する場合、現在は新型コロナウイルスの感染が危惧される。その対応策として、例えば国税庁は19年分の所得税などの確定申告期間を1カ月延長している。会場に人が集中するため、期間を延ばすことで混雑を緩和する狙いだ。転入届の提出など役所での手続きも確定申告と時期や混雑状況が似通っている。今後も感染拡大に収束の兆しが見えない場合、さらに厳重な対策を追加しなければならない。
対面減らす「スマート行政」
政令指定都市で人口増加率が最も高い福岡市は、若年層の流入や転勤族の転入・転出が活発な街。引っ越しシーズンは区役所に人が詰めかけ、待ち時間が1―2時間になることも珍しくない。住民異動届や小中学校の転入学、児童手当や国民健康保険の引き継ぎなどさまざまな手続きは、来庁者だけではなく対応する職員にとっても負担となる。
「スマート行政」を掲げる福岡市はオンラインを活用した行政手続きを推進し、職員採用試験の申し込みのほか、税務証明や不在者投票用紙の交付などを簡略化してきた。さらに、引っ越しに伴う手続きをまとめて簡略化したのが、1月に始めた引っ越し手続きのオンライン予約サービスだ。新型コロナウイルスの感染者が市内で確認されたことを受け、市はHP上で感染症予防の一環としても活用を呼びかけている。
同サービスは、スマートフォンやパソコンから市のHPにアクセスし、チャットボット(自動応答ソフト)の指示に従いながら住所や氏名などの必要な情報を入力する。法律上必要な来庁は時間が予約でき、対面での本人確認と書類へのサインだけで済む。サービス開始から約1カ月で約460件の利用があった。転入・転出が活発になる3―4月にかけてさらに利用増加を見込む。
引っ越しに伴い生じる粗大ゴミの回収でも市はオンラインを活用したサービスを展開している。品目や日程など一般ゴミと比べて複雑な仕組みに対し、連携協定を結ぶLINEのサポートを受けて「福岡市LINE公式アカウント」内で粗大ゴミの収集申し込みを受け付けている。専用アカウント内で収集先の住所や搬出場所、希望日などを入力して手続きを済ませられる。19年7―12月には粗大ゴミの受け付け全体の24%となる2万8453件を受け付けた。
立ち会い必須のガス各社は?
ガス会社は新居のガスを開栓する際、住人の立ち会いを原則必要とする。東京ガスは感染拡大防止のため、都市ガス契約者の開栓業務を担当するグループ各社の社員にマスク着用を指示した。引っ越しシーズンと、小中高の一斉休校など感染防止対策の影響が重なり、人員確保も懸念される。同社はグループ各社に対応を任せるものの、「開栓の要望に応えられる体制を整備する」という。
北海道ガスは繁忙期の引っ越しシーズンには通常、ガス器具の修理や販売など他業務に携わる職員を大幅に動員し、ガスの開栓作業に必要な人員をそろえる。新型コロナウイルス対策は手洗い、うがい、マスクの着用や小型の消毒液の携帯によるこまめな消毒など、同社は「基本的なことを徹底して行っている」という。例年流行するインフルエンザ対策で同様の取り組みを実践しており、新型コロナウイルスだからといって特別な対策はなさそうだ。西部ガスも同様に現状では特別な対策は講じていない。