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隠れた資源「LNG冷熱」に注目、脱炭素化を盛り上げる“熱量”になるか

隠れた資源「LNG冷熱」に注目、脱炭素化を盛り上げる“熱量”になるか

東邦ガスの社員が水揚げされたサーモンを手早く血抜きする光景はさながら漁港だ。(同社のLNG基地にて)

液化天然ガス(LNG)が気化する時に生まれる冷熱エネルギーの可能性が高まりそうだ。本来はLNG1トン当たり約84万ジュールのエネルギーを回収できるが、これまでのところ利用先の需要を創出し尽くしてしまい、100%の活用ができていないのが現状だった。ガス会社が新規事業や脱炭素化に向けた研究開発を進める中で「未利用熱」という隠れた資源に着目する動きが広がっている。(名古屋・永原尚大)

「こいつは大きいぞ!」。6月2日、東邦ガスのLNG基地で生きの良いトラウトサーモンが水揚げされた。ピチピチと跳ねるサーモンを東邦ガスの社員が手際よく血抜きする。さながら漁港のような光景だ。

これは同社が新規事業として進める実証実験の一つ。2021年11月に知多緑浜工場(愛知県知多市)の一角で、冷熱により冷やした海水を使って陸上養殖する取り組みだ。サーモンは海水温が20度C以上になると成育が難しく、夏場に提供する生食用サーモンには高い付加価値があるという。実証を通じて同社は養殖場の大型化やノウハウを蓄積し、商品価値の検証を進める。将来は「LNG基地産のサーモン」としてブランド化も狙う。

同社が目を付けた冷熱は活用しきれていないのが現状だ。東邦ガスの冷熱利用率は3割にとどまる。大手ガス各社も発電やドライアイス、液化窒素の製造などに利用するが、活用し尽くした状態にあるという。残りは全て海に捨ててしまっているのが実態だ。

「隠れた資源」と言える冷熱は、脱炭素化に貢献する可能性も秘めている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が22年5月に採択した実証事業の一つに、名古屋大学や東邦ガスが提案した冷熱で二酸化炭素(CO2)を分離回収する取り組みが挙げられた。

CO2を吸収する液体を使った化学吸収法で実施する加熱や真空化による減圧工程を、冷熱によるCO2のドライアイス化で置き換えるものだ。減圧工程で使用するエネルギー量を9割削減できるとして、30年の実用化を目指している。

そもそも、LNGは産出した天然ガスをマイナス162度Cに冷却して液化したものだ。冷媒を用いて体積を600分の1にまで圧縮しているが、その工程では多くのエネルギーが必要とされる。従来では捨てるしかなかった冷熱だが、ガス各社の取り組みが進展すれば新規事業や脱炭素化を盛り上げる“熱量”にもなりそうだ。

日刊工業新聞2022年6月8日

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