トヨタ・ホンダ・日産…製造から廃棄まで「脱炭素」、それぞれの試行錯誤

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車づくり全体でCO2削減を図るにはサプライヤーを巻き込んだ取り組みが不可欠(日産の栃木工場)

2050年に車の製造から廃棄までライフサイクル全体でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を目指す日本の自動車業界。完成車メーカー各社は部品の製造を含めたサプライチェーン(供給網)全体で二酸化炭素(CO2)排出量を減らす取り組みを本格化している。脱炭素に向け供給網のカタチも変化を迫られる。部品メーカーを含む車各社の動きや課題を追った。(西沢亮)

完成車メーカー/”三者三様”

「できる目標をしっかりやりたい」。日産自動車の長谷川博基専務執行役員は供給網での脱炭素を慎重に進める姿勢を示す。

日産は鉄や電子部品を扱うサプライヤーなど部品ごとに3―4のカテゴリーに分け、10社弱のサプライヤーとCO2削減に向けた課題を共有する取り組みを試験的に始めた。

部品によって調達した材料の採掘時や素材の製造段階などCO2を多く排出する領域は異なる。まずは製造プロセスを理解し、課題を抽出。日産のノウハウも活用するなどして対策をまとめ、サプライヤーとCO2削減目標を設定する。長谷川専務執行役員は「一律に削減目標を掲げるのではなく、知恵を出し合いながら目標に向かいたい」とした。

トヨタ自動車は主要な1次取引先の部品メーカーに2次取引先以下のCO2排出量を把握するよう調査を依頼した。これまでトヨタは1次取引先のCO2排出量の総量を把握していた。今後は駆動部品や車体部品など約80の品目ごとに排出量の見える化を目指す。日産と同様にまずは、製造工程を理解し課題を洗い出す。

完成車・部品メーカーは車のライフサイクル全体で脱炭素に取り組む(トヨタが投入を予定するEVラインアップ)

ホンダは主要部品メーカーに50年のCO2排出量ゼロに向けた工程表の提出を求めた。25年度から19年度比年4%ずつ削減するよう要請したが、この数値は目安との位置付けで、実際には部品の種類や規模を考慮した上で排出削減を促す意向だ。

海外メーカーも対策に乗り出す。独ダイムラーは39年までに供給網全体でカーボンニュートラルを達成する目標を掲げた。独フォルクスワーゲン(VW)は電気自動車(EV)「ID.3」で、カーボンニュートラルを義務付ける契約をサプライヤーと結んだ。トヨタやホンダは取引先にCO2の削減を要請しているが、取引条件にはしていない。ある自動車メーカー幹部は「日本と海外の完成車メーカーで、求められるCO2排出量のデータが異なるとされ、部品メーカーの負担になりかねない」と懸念する。供給網の脱炭素に動きだした完成車各社だが、進め方を巡る試行錯誤が続く。

部品各社/素材変更・工程見直し

供給網でCO2排出の削減に貢献する取り組みが広がる。ヨロズは足回り部品の開発で製造から使用までのCO2排出を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」手法を導入した。素材をアルミニウムから鉄に置き換えることで、LCAでのCO2排出量を従来比28%減らせる足回り部品「サスペンションアーム」を開発し、量産品として受注した。

アルミから鉄への置き換えで重量は従来比33%増加した。CO2排出量は、年20万台生産する車両に同部品が6年間採用されたと仮定して試算。使用段階では鉄の採用で重くなったため車両走行時の排出量は同33%増えるが、素材の生産段階を含めた製造時の排出量は同76%削減でき、LCA全体では同28%減の28万トンの抑制効果があると見積もった。平中勉社長は部品の競争力は品質やコストなどに加え「脱炭素やカーボンニュートラルへの貢献があってこそお客さまに認めてもらえる」との認識を示す。

曙ブレーキ工業はブレーキパッドの製造でCO2排出量を従来比半減できる手法を開発した。原材料の構成を見直した上で製造工程を改善し、CO2を多く排出する加熱工程を減らした。また作業効率の向上で生産リードタイムも同半減した。22年夏に投入予定のアフターマーケット向け製品に適用し、順次対象を広げる方針だ。

部工会/部品製造段階でCO2排出量産出 会員向けツール

供給網でのCO2排出量の把握が求められる中、日本自動車部品工業会(部工会、尾堂真一会長〈日本特殊陶業会長〉)は、部品を製造する段階のCO2排出量を容易に算出できるツール「LCIデータ算出ツール」を開発し、19年5月に会員を対象に公開した。製品を構成する材料に注目し、メーカーごとに異なる材料の製造方法、プレスや切削といった加工方法に応じて排出されるCO2を標準化。部品を構成する材料やその使用量が分かれば、排出量を算出できる手法を確立した。

裾野が広い車部品業界では2次取引先以降の排出量を正確に把握するのは難しい。各取引先の排出量を積み上げても入力ミスなどでデータの信頼性を損なう恐れもあり、調査に依存しない算定手法が求められていた。

また部工会では部品が車に搭載されて使用される段階のCO2排出量を算出できる仕組みも開発。部品ごとに異なる負荷を標準化し、排出量の把握を可能にした。部工会環境対応委員会の棚橋昭LCA分科会主査(デンソー安全衛生環境部担当部長)は、完成車メーカーが「部品の輸送や廃棄など、より細かなCO2排出量の把握を求める場合はさらに研究が必要になる」と言う。

競争促す欧州と一線 大手・中小枠超え課題共有

「部品製造時のCO2排出量減では不十分で、カーボンニュートラルにしなければ、いずれ購入してもらえなくなるのではないか」。ある大手部品メーカー幹部は欧州でカーボンニュートラルによる納入を求められたとし、影響の広がりを警戒する。仮に取引要件にカーボンニュートラルが盛り込まれることになれば、火力発電に頼る日本からの部品の輸出は難しくなる。また再生可能エネルギーを自ら調達して脱炭素を実現しても、コストの上昇を価格に転嫁できず、「より安くつくれる地域に工程を移すことになりかねない」(同幹部)と危惧する。

一方、クリーン水素を活用するなど新たな技術を開発しCO2削減を図る試みもある。アイシンは東邦ガスと熱処理工程などで使用する水素バーナーの実証を開始し、デンソーはCO2を回収して循環利用する実証実験を始めた。

デンソーが実証を進める「CO2循環プラント」

ただ、こうした革新的技術の開発は大手に限られ、裾野の広い車産業で生産を支える中小企業では難しい。ある日本の自動車メーカー首脳は「サプライチェーン全体で課題を明確にしながら一緒に悩みませんか」と部品メーカーに呼びかけ、一体となって取り組む姿勢を示す。

取引要件に盛り込み競争を促す欧州メーカーの動きとは一線を画す、こうした日本型の取り組みが実を結ぶのか。底力が試されそうだ。

日刊工業新聞2022年1月3日

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