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鉄鋼大手が相次ぎ販売表明…欧州含む“脱炭素商品競争”が始まる

鉄鋼大手が主に自動車向けに、自社生産工程での二酸化炭素(CO2)排出量が少ない鋼材の販売を相次ぎ表明している。日本製鉄は2023年度から、電気炉で生産する電磁鋼板などを販売する計画。神戸製鋼所は現高炉による製品とし、薄板から条鋼までの全品種で22年度に発売する。JFEスチールや電炉専業も今後、方針を打ち出すもようだ。数量的には当初限定的ながら、欧州メーカーなどを含めた“脱炭素商品競争”に一歩踏み出すことになる。(編集委員・山中久仁昭)

「CO2排出量100%削減タイプでの計算なら、30年には100万トン規模の販売を目指す」。神戸製鋼所の山口貢社長は19日、オンラインの経営説明会で低CO2鋼材「コベナブル・スチール」の展開に自信を見せた。

というのも20年に、加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の高炉の還元工程でCO2排出量を従来比20%減らすことを実証。米子会社のミドレックス技術で製造した熱間成形還元鉄「HBI」を活用したもので、「還元鉄が(脱炭素化の)キーワード」(山口社長)だ。

投入こそ23年度になるが、“カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)スチール”販売を国内で初めて表明したのが日本製鉄。橋本英二社長は10日の決算会見で「世界に先駆け電炉で高級鋼を生産する。供給を上回る需要は間違いない」と力を込めた。

車の電動化で需要が増える電磁鋼板などを年約70万トン売り出す。約280億円を投じ、建設・整備し22年度上期に広畑地区(兵庫県姫路市)で稼働する新電気炉で生産。CO2発生は高炉―転炉鋼の約4分の1で、電力には再生可能エネルギーなどを使う。

JFEスチールの出方が注目される。「カーボンリサイクル高炉」などの開発に注力する中、低CO2鋼材の対応を検討している。「価値を認める顧客に適切な価格で購入してもらえれば、さらなる脱炭素の開発原資が得られる」(同社)。

日鉄、JFEとも排出量の第三者認証、商品量の決定には「マスバランス方式」の採用が有力視される。自工程のCO2削減効果を一部商品に割り付けグリーン商品と見なすもので、神鋼、欧州アルセロール・ミタルやティッセンが採用する。

他社もチャンスをうかがう。東京製鉄は電炉材本来の環境優位性を踏まえ、低CO2鋼材の販売を積極的に検討。三菱製鋼はインドネシアの電炉を活用した販売を検討する。

高炉業界にとって今は、究極の脱炭素技術である100%水素還元までの“つなぎ”期間。生産コスト増となるため価格は割高だが、色や機能は従来品と変わらない。脱炭素の競争の中、新しい概念の戦略の確立が求められる。

日刊工業新聞2022年5月24日

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