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【ディープテックを追え】農薬にイノベーション!医薬の”構造解析”を応用

#73 アグロデザイン・スタジオ

「より安全な農薬を世の中に出していく」。こう意気込むのはアグロデザイン・スタジオ(千葉県柏市)の西ヶ谷有輝社長。国連の持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まるなか、農業でも環境負荷の低減と食品安全の両立が求められる。同社は従来とは一線を画す方法で、農薬開発の変革を目指す。

カギはたんぱく質の構造解析

これまでの農薬開発は候補の化合物を害虫や雑草などに添付し、多くの対象物に効果を示す化合物を採用する方法がとられてきた。この方法の場合、「なぜこの化合物が効いたのか」というメカニズムが分からない。そのため人に対しても化合物が働き、健康被害を起こしてしまうリスクを抱えていた。アグロデザイン・スタジオは「構造ベース創農薬法」という技術で、より安全な農薬を開発する。カギを握るのは、たんぱく質構造解析だ。

植物タンパク質ALSの構造(同社提供)

近年、新薬の中心になっているのはバイオ医薬。これは病気の原因になっているたんぱく質の構造を解析し、たんぱく質だけに作用する薬を設計することで薬効を高めつつ、副作用を減らす。同社はこの手法を農薬に応用する。植物などが持つ、たんぱく質をコンピューターで解析。このデータをもとに人は持っておらず、植物だけが持っているたんぱく質にだけ作用する農薬を設計する。こうすることで人への安全性を担保しながら、害虫や雑草にピンポイントで農薬が効くようにする。

構造設計を加速

同社のラボ

現在の候補品(パイプライン)は殺虫剤や土壌の硝化菌を殺菌する「硝化抑制剤」など六つだ。同社は候補薬の薬効を試験したのち、製造販売をライセンスアウトする方針。そのためたんぱく質の解析や実験データこそ、同社の競争力の源泉だ。西ヶ谷社長は「これまでの農薬開発ではあまり使われていなかったコンピューターによる構造設計を加速させる」と話し、植物特有のたんぱく質の構造解析を進める。2022年度は300のたんぱく質の構造解析を目標に掲げる。すでに人工知能(AI)開発のプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)と組んで、除草剤抵抗のある変性酵素に有効な阻害剤を創出した。計算科学を駆使することで、安全性の向上と開発期間の短縮を目指す。

「企業と研究機関の架け橋になりたい」

西ヶ谷社長

医薬の世界では大学発スタートアップなどが作った薬の種(シーズ)が、メガファーマーによって製品化されるエコシステムが存在する。ただ農薬の場合、その事例は少ない。そこには農薬企業と研究機関との間に認識の隔たりがあるからだ。製造を見据えながら分子を設計したり、特許出願において互いのノウハウが共有されていない現状がある。西ヶ谷社長は「将来は農薬企業と研究機関の架け橋になりたい」と話す。最終目標は研究成果をライセンスアウトして、社会実装するエコシステムを農薬の世界でも実現することだ。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
薬効などを高めるためにインフォマティクスがさまざまな領域で進んでいます。すでに医薬では活用が進んでいます。同社が農薬分野で同様の方法を進められるかは、研究速度向上にかかっているかと思います。また、農薬のように広範囲に散布する薬品は、量を必要とするため利用者が利用しやすい価格帯に収めることも重要です。

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