農業ポテンシャルをロボットで生かす愛知県の挑戦
愛知県は農業分野でロボットの活用機会を探るため、民間企業の協力を得て実証実験を実施した。農業は体力面での負荷が高いため、ロボット導入により働き方の改善や生産性向上が期待できる。しかし現状ではロボット活用は、工場の生産ラインなどと比べ農業では乏しい。愛知県は農業産出額で全国8位(2019年、2949億円)に付ける。そのポテンシャルを生かして農業ロボットが活躍できる場を明らかにし、社会実装を加速させる。(名古屋・永原尚大)
ビニールハウス内で実った真っ赤なトマト。パワーアシストスーツを着用した作業者が軽やかな動きで収穫すると、自律走行ロボットが倉庫へ搬送する。運ばれたトマトは大きさや品質の違いで一つずつ自動で仕分けされていく―。こんな新しい農業の光景がトマト農場「トマロッソ東郷ファーム」(愛知県東郷町)で広がった。
愛知県は農業でのロボット活用を探る実証実験を2021年12月下旬に開いた。呼びかけに応じたジェイテクト、トクイテン(名古屋市中村区)、GRIPS(グリプス、千葉県流山市)の3社のロボット3種類を収穫・荷下ろしや搬送、外観検査、農薬散布の工程で活用した。身体負荷軽減、効率化などの効果を探り需要喚起につなげる狙いだ。
ジェイテクトは、パワーアシストスーツ「ジェイ・パス ランバスⅡ」で農作業を支援した。一般的にトマトの収穫は、屈伸運動などが必要になり身体的な負荷が高い。実証ではパワーアシストスーツ着用時と非着用時で心拍数などを測定し負荷の軽減度合いを調べた。収穫したトマトを積み込むと重量が約13キログラムにもなるコンテナを運ぶ作業などで効果があったという。
トクイテンは、自律走行する搬送ロボットで収穫したトマトを運んだ。噴霧器を搭載すれば、液体肥料や農薬を散布する運用もできる。同社は人工知能(AI)とロボット、有機農業を組み合わせた自動化システムを手がけており、実証実験で得た知見を今後の開発に生かす。
GRIPSは外観検査ロボットを農業用に転換した。ベルトコンベヤーに載せたトマトを自動撮影してAIが傷を確認する。柔らかいトマトをつぶさないように専用ハンドも開発した。検査スピードは課題だが、常時稼働できる点は強みとなる。
実証実験を経てトマロッソ東郷ファームの浅岡竜馬農場長は「人では難しい部分をロボットが担うなど相互補完できれば、農業での導入は可能性がある」と期待を示す。
普段の仕事として農業に従事する基幹的農業従事者数は全国で136万人。平均年齢は67・8歳と高齢化が進む。農業の労働力不足は深刻な問題となっており、農林水産省はロボットを活用する「スマート農業」を推進する。こうした動きに呼応し愛知県は「(実証で)明らかになった改善点や現場のニーズを踏まえ、改良開発や普及の支援を進める」(担当者)と意気込む。