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放射光データ活用、東北大が設立する企業群の全容

東北大学は2023年に運用開始予定の次世代放射光施設と、ここから得られる大量データ(ビッグデータ)の活用で、データ解析や受託検査などサービス事業を手がける企業群を設立する。同施設有志連合の約160社を主対象に、新たな産業価値創造の支援を行う。産学官金連携の同大「サイエンスパーク」で整備される計測や試作品開発の施設・設備も連動させ、地域の中小企業など多様な企業のイノベーションを後押しする。

次世代放射光施設は強力な軟X線のビームを発して半導体、電池、触媒、食品、脳などの状態を元素レベルで可視化できる。硬X線の大型放射光施設「SPring―8」との連携も特徴だ。

整備費のうち約200億円を国の整備運用主体の量子科学技術研究開発機構が、約180億円を財団や同大などの官民地域パートナーが分担。ビームライン10本のうち7本が民間向けで、企業は一口5000万円で使用権を得る仕組みだ。

青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)のサイエンスパークでは同施設と同じ23年に、クライオ電子顕微鏡など先端計測装置を備えた放射光研究センターが動きだす。24年にはデータ解析センター、オープンイノベーションとインキュベーションの施設が運用開始予定だ。これに合わせてサービス支援企業を6社程度、同大や参加企業の出資を組み合わせて設立する計画だ。国立大学の規制緩和をにらんで詰める。

支援サービスは放射光ビッグデータの管理、解析が大きい。生体材料と金属材料では実験方法や得られるデータの癖などが異なり、専門コンサルティングが必要になる。他にデータを国内外に送信する通信網の整備・管理、実験スペースや装置の提供、受託検査、研修や支援人材派遣などのビジネスを想定している。

日刊工業新聞2022年3月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
国立大出資の企業はすでにVCなどいくつかあるが、それらに限らない新しい形を、東北大は規制緩和をにらみつつ放射光関連で思案する。近年の指定国立大のトップらの会議で、同大が国に対して「子会社群をまとめるホールディングスの設立は可能にならないか?」と発言していたので、「そんなに多数をするつもりなのか!」と気になっていた。その内容の一端を今回の記事で紹介することとなった。なお先日の地震に関連して「放射光施設などはびくともしなかった」「しっかりと地盤改良しているおかげだ」という声を聞いた。リスク管理という意味では、危機対策が生半可な他機関ではなく、東北大が関わることが、逆に安心感につながるなと感じた。

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