ロシア供給不安でまたも騰勢、原燃料高が企業収益を圧迫する構図はいつまで続く?
ロシアの資源供給不安に伴う原油高などが国内に波及し、原燃料価格が再び騰勢を強めている。企業間取引の商品価格動向を示す日銀の企業物価指数は、2月の上昇率(前年同月比)が3カ月ぶりに9%台をつけ、約41年ぶりの高水準となった。年後半にかけては、米国の利上げなどを背景とするドル高・円安の進行も輸入資源価格の上昇に拍車をかけ得る。当面は、原燃料高が企業収益を圧迫する構造が続きそうだ。
燃料や合成樹脂など用途の広い原油のニューヨーク先物は、2月初旬に約7年半ぶりに1バレル=90ドル台をつけた後も上昇し、3月上旬に一時同130ドルを超えた。警戒されていたロシアのウクライナ侵攻が2月下旬に現実化し、ロシア産原油の供給途絶への懸念が急伸につながった。
原油高などを受けて2月の企業物価指数(速報値)の上昇率は前年同月比9・3%と、2021年11月の同9・2%を超えて80年12月以来の高水準となった。寄与度の上位には「石油・石炭製品」(2・1%)や「電力・都市ガス・水道」(1・6%)、「鉄鋼」(1・4%)が並ぶ。当面は、燃料高が遅れて反映される電力料金の上昇のほか、ロシアの供給懸念に伴う原料炭や銅の高騰の波及もあって、企業物価に押し上げ圧力がかかりそうだ。
直近では、アラブ首長国連邦(UAE)がほかの産油国に増産を要請する意向を示して原油相場の騰勢が一服したが、ロシアも参加する「石油輸出国機構(OPEC)プラス」で増産加速が決まるかは不透明だ。21年7月には、ロシアなどが主張する協調減産の延長にUAEが反対して協議が中止になった。
第一生命経済研究所の大柴千智副主任エコノミストは「原油が4月まで100ドル付近で動けば、国内企業物価は5月頃まで前年同月比8%台の極めて高い上昇が続く」とみる。
また、年後半にかけては、足元で1ドル=117円台と約5年ぶりの円安水準にある為替の円安がさらに進み、輸入材価格が押し上げられそうだ。米国の利上げに伴う日米金利差の拡大や、輸入資源の高騰でドル建て決済のためのドル買い・円売り実需が膨らむことなどから「年内は1ドル=120円近辺まで円安が進む」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジスト)との声がある。
一方、国内の消費者物価(生鮮食品を除く総合)上昇率は4月以降、携帯電話料金の引き下げ効果の剝落(はくらく)で前年同月比2%近辺までの伸びが想定されるが、定着は見込みにくい。日銀は1月、22年の物価上昇率見通しを1・1%とし、黒田東彦総裁は「(賃金上昇を伴わない物価上昇は)持続的なものになり得ない」と述べた。
足元ではウクライナ危機で景気不安が増大し、賃上げ期待は後退した。「4月に日銀の物価見通しの上方修正はあり得るが、インフレ定着は限定的」(野村証券の小高貴久シニア・ストラテジスト)との見方もある。生活に欠かせない食料品を中心に値上げの動きはあるものの、原燃料価格の転嫁が広がりにくい環境は続きそうだ。