【ディープテックを追え】人工ダイヤ、半導体への応用狙う
「微細化」を進めることで、さまざまな技術革新を生んできた半導体。サイズを小さくしながら、処理能力を向上させてきた。
ただ、さまざまな製品に採用されるIoT(モノのインターネット)時代で別の競争軸も生まれつつある。それは「省エネルギー」だ。半導体を少ないエネルギーで稼働することが求められている。それに伴い炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの材料開発、量産競争が進んでいる。
金沢大学発スタートアップ、Kanazawa Diamond(カナザワダイヤモンド、金沢市角間町)は、GaN以降の次世代素材であるダイヤモンドを研究開発する。
パワーエレクトロニクスデバイスの性能向上
ダイヤを半導体材料に使う研究は古くから行われてきた。特に期待されるのはパワーエレクトロニクスデバイスの分野だ。通信が大容量化し、今後シリコンでは対応できない場面が増加すると予想される。現在では使える半導体がなく、真空管を用いている分野を置き換えることで、エネルギーロスを減らせると期待される。想定されるのが通信衛星やビヨンド5Gなどの分野だ。
理想的なダイヤはシリコンよりも約5倍の高温の環境で動作し、17倍の放熱性があるされる。パワーエレクトロニクスデバイス向けに開発されるSiCやGaNと比較しても、より高性能といえる。
まずはジュエリーで展開
カナザワダイヤモンドはダイヤが成長する過程を人工で再現し、ダイヤを製造する。採用する製造法「化学蒸着法」は、真空状態の中でメタンガスと水素ガスの混合ガスに3000度Cの熱エネルギーを与えて分解し、「種基板」となるダイヤの上に炭素原子を堆積させ、成長させていくというもの。製造装置を購入し22年には市場での展開を予定するが、すぐさま半導体に応用できるわけではない。小林和樹社長も「ウエハーとして使うには、サイズや高純度化など課題も多い」と話す。
先行して事業化を進めるのがジュエリーでの展開だ。天然のダイヤを巡っては採掘現場での過酷な労働や環境破壊が懸念されている。同社は人工ダイヤの「持続可能性」を訴求する。今後は宝飾品メーカーにヒアリングを行い、価格などを決める予定だ。5カラットほどの大きさを想定する。
小林社長は「ジュエリー用の積層技術を磨けばウエハーに応用できる」と今後を見据える。ダイヤモンド半導体の実用化は、10~20年後と予想されており、ダイヤの長時間成長ができるかどうかがカギを握るという。
パワーエレクトロニクスデバイスは日本が競争力を有している。米国には同様に人工ダイヤのジュエリーから半導体ウエハーへの展開を狙うダイヤモンドファウンドリーなど、ライバルも存在する。小林社長は「技術開発を進めて、日本の半導体産業に貢献したい」と展望を語る。
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