「原発不明がん」にオプジーボ、世界に先駆け日本で承認された意味
小野薬品工業が製造し、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(東京都新宿区、ジャン=クリストフ・バルラン社長)と販売するがん免疫療法薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)。最初にがんが発生した原発巣の臓器が特定できない「原発不明がん」に対して2021年12月に日本で承認された。標準治療が確立できていなかった同疾患で治療法の選択肢ができたことに加え、承認が他国に先駆けて行われたことも注目される。(編集委員・安藤光恵)
がんは発症する臓器によって性質が異なるため、治療法も画一的ではない。がんの治療薬もがん腫ごとに臨床試験や承認が行われる。特に原発不明がんの大半はこれまで特徴がなく特定の治療法がなかった。
この場合、診断時にはすでに進行して転移が起きた状況では、半数以上の患者で複数の臓器に転移が認められる。そのため手術でがんを取り除くことは困難で、薬物療法が頼りとなる。
オプジーボの原発不明がんに対する臨床試験を担当した近畿大学医学部の中川和彦教授は、今回の承認について「原発不明がんが一つの疾患として薬剤承認の対象と認められたことに大きな意味がある」と力説する。
初期状態が特定できない多様な状態のがんを総称する原発不明がんが承認対象となることで「新たな研究や治療法の開発への道も開いた」(中川教授)と発展に期待する。世界に先駆け承認されたことにより日本が原発不明がん治療でリードする可能性も考えられ、オプジーボにとっても大きな一歩となる。
がんは検査中にも進行する。そのため、長期にわたり原発巣を探し続けることは患者の負担が増えることから治療ガイドラインでは1カ月以内の治療開始を推奨している。
これまで特定の治療法のない原発不明がんは複数の抗がん剤を組み合わせて進行を抑える試みが行われてきた。生存期間の中央値は6―9カ月、5年生存率はわずか2―6%と厳しい状況だった。
しかし、オプジーボの臨床試験では他の薬剤での治療歴を問わず効果が認められ、半数近くで腫瘍縮小がみられるほか、生存期間の中央値が約16カ月を記録した。中川教授は「これを機に原発不明がんという病気が存在することを知ってもらいたい」という。
原発不明がんの認識が広まれば早期の治療開始につながる。現在、さまざまな抗がん剤の組み合わせも臨床試験による検討が行われており、治療の選択肢が増えることが期待される。