資生堂生え抜きの女性エグゼクティブオフィサーを支えた「多様な価値観」を育む経験とは
22年1月に資生堂のチーフD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)オフィサーに就任した鈴木ゆかり氏。入社後、さまざまなブランドに携わり、21年に代表取締役常務に就任。海外研修といった「曲がり角」で、視点の変化をもたらす小さな転換点をいくつも体験し、その過程で、多様性を生かしながら協業する重要性に気づいたという。(聞き手・昆梓紗)
多様性で価値観を育む
―一専門職として入社し、同じ会社で働き続け、取締役になられた鈴木さんですが、同じように一社員として働いている私が取締役になる未来、まったく見えないなと思っておりまして…ご自身の現在につながる転機になったなと思われる出来事はありますか。
その質問の答え、私も知りたいです(笑)実は、取材のお話をいただいてから、結構考えこんでしまって…。「転換点」って、一般的には大きな転機があって、その前と後でがらっと景色が変わるようなことですよね。そういったドラスティックな転換があったというより、歩んできた道に曲がり角がいくつかあって、それを曲がると視界が変わり、そこで新しい経験や刺激を受けたことが自分の栄養になったと感じています。入社以来同じ会社に勤めてきましたが、同じだと感じたことはあまりないんです。
ただ、その過程で多様性の大切さに気付いたことはその後の助けになりました。
20代の時、研修として1年間ニューヨークで勤務しました。当時の日本はバブルで、ニューヨークはすでに不況に足を踏み入れていた。にもかかわらず、多様な人、文化で成り立っているニューヨークのエネルギーはすさまじくて。初めて長期間海外で暮らした私は良い刺激をたくさん受けました。
その後、バリでのスパ開発も大切な経験です。時間の感覚が違ったり、日常の中にお祈りが入っていたりと、同じアジアとはいえ違いが多かった。自分が知っている価値観はほんの一部なのだと身に沁みました。
―さまざまな組織を率いた場面でも、多様性の観点は重要でしたか。
同じ日本の同じ会社であっても、多様な価値観があり差異がありますよね。特に、状況が複雑化し先行きが見通せない現在では、部門をまたいだ連携が必須になっています。そこでは違うということを前提に協働することが必要です。
その上で、リーダーとしては組織の強みを発見して伸ばすことに一貫して取り組んできました。不調な組織を立て直さなければいけない、という場面もありましたが、悪い面ばかりに目を向けるのではなく、強みを生かすとうまくいくと考えてきました。
早く決断する
―コロナ禍では先行きが不透明な状況が続いています。リーダーとして決断する際に心掛けていることは。
この1年は思った以上に厳しいものでした。しかし、我々ブランドホルダーは未来のブランドの価値を模索し作っていく必要があります。それに向けて、デジタル上での顧客接点を増やすなど、回復に向けた準備を進めてきました。情報が出揃うのを待っているのではなく、早く決断しスモールスタートでもよいので実行すること。その中で市場の反応を見て、学び、改善して、取組みを広げていくことが重要です。特に新しいことをやる時は考え込むよりもやってみるように心がけています。
―「BAUM」、「THE GINZA」など新たなブランドもその挑戦の1つですね。
こういった小さな組織では特にスモールスタートでの実験を重ねやすく、お客様との距離も近いので反応をダイレクトに得やすいですよね。特にBAUMは弊社の既存のブランドでは出会えなかったお客様に支持されているなと強く感じています。
―美を取り巻く価値観も多様化しており、今後事業を展開していく上でも大きなポイントです。
お客様の価値観が変化してきたことは実感しています。当社でも美の多様性に関するメッセージを発信するとともに、長年行ってきた「ライフクオリティーメイクアップ」の活動を強化していきます。これまで、がんサバイバーの方などに向けたメイキャップ支援などを行ってきました。
22年1月より就任したチーフD&Iオフィサーとして、社内だけにとどまらず、当社での取り組みをどう社会に還元していくかにも注力していきたいと思います。
【略歴】すずき・ゆかり 85年(昭60)入社。14年イプサ代表取締役社長、21年代表取締役常務。22年1月1日常務チーフマーケティングオフィサー兼チーフD&Iオフィサー就任予定。